Research Abstract |
母指,手指の機能障害の程度によって,握力,ピンチ力の計測は困難となり,手の残存能力の評価が不十分となることがある.そこで今回,三次元解析による新しい母指筋力測定システムを開発し,母指の末節骨部と基節骨部での屈曲,伸展,外転,内転力を比較検討した. 対象は,健常女性10名20手の母指で,年齢は21.1±1.2歳であった.自作の母指筋力測定システムは,センサー部に三分力計を固定し,3台の動歪みアンプと,A/D変換解析機器を介して,自作のコンピュータソフトでシステムを制御した.計測肢位は,肩関節屈曲60度,前腕中間位,手関節背屈40度,母指CM関節橈側外転20度とした.各運動方向の筋力は,センサー部を母指の末節骨部,あるいは基節骨部に当て,尺側方向への運動を屈曲,橈側方向を伸展,掌側内転方向を内転,掌側外転方向を外転として最大努力下で計測した.各測定は3回計測し,その平均値を測定値とした.各運動方向の筋力の統計処理は,一元配置分散分析を使用し多重比較検定にはScheffeの方法を用い,末節骨部と基節骨部の比較は,対応のあるT検定を用い,ともに有意水準を1%とした. 母指末節骨部の屈曲は平均25.9N,伸展は8.3N,外転は11.2N,内転は22.8N,基節骨部の屈曲は28.4N,伸展は14.7N,外転は13.1N,内転は36.5Nで,ともに内転と屈曲は,伸展,外転より有意に大きかった(P<0.01).しかし,屈曲と内転,伸展と外転の間には有意な差はなかった.また,基節骨部の伸展,内転は,末節骨部より有意に大きかったが(P<0.01),屈曲と外転では有意な差はなかった.本法は,新しい母指筋力評価法として臨床応用が期待できると考えられ,同時に現在は,母指の手根中手関節における関節トルクを試算している.
|