Research Abstract |
火災に対応する消防員の装具は,耐熱性,耐炎性が必要とされるために,必然的に衣服熱抵抗の高い密閉型の衣服となる.この様な密閉型の衣服は,衣服内気候の換気が少なく,発汗による潜熱放散が抑制される.その為に消火活動に伴う人体の代謝による蓄熱を短時間に増大させ,消防士に過度なヒートストレスを与える.このヒートストレス対策として,東京消防庁では,両脇下部および後背部の衣服内ポケット,あるいは冷却ベスト内へ冷却剤を収納する方法によってヒートストレスを緩和している.しかし,これらの冷却方法について検討した報告は少なく,充分な評価がなされているとは言い難い.実際我々の実験では,体幹部の局所冷却による体温抑制効果は小さいこと,さらに頭部の温度上昇が認められ,それが被験者に不快感を与えることが認められた(報告済). ところで,マラソン時における選手の直腸温は,42℃に達することが報告されている.しかし,それでも選手が完走できるのは頭部の温度が低く保たれているからに他ならない.すなわち,マラソン時は,腕部等の表面積の大きい部分を中心に発汗による熱放散が行われることで,体温上昇が効率的に抑制されるのに加えて,頭部からの熱放散が積極的に行われることによって、中枢神経系である大脳が保護される.この機能は、選択的脳冷却といわれている.選択的脳冷却とは,脳温が上昇すると顔面や頭部表層で冷却された静脈血が、脳へ向かう動脈血を対向流熱交換によって冷却する生理的機構であり,頭部を冷却することが,消防員装具着用時のヒートストレスを緩和し,消防員の快適感を得るための有効な方法であると考えた.そこで我々は,先述した消防員装具の着用実験による評価方法を用いて,冷却剤を用いて頭部を冷却する方法と送風ファンを用いて頭部における気化熱放散を促進させる方法という2つのヒートストレス対処法について,消防員装具の通常着用と比較し,その効果を検討した.その結果,頭部を送風することがヒートスートレスの逓減に有効であることを明らかにした(報告済).さらに,モーターファンを2つ利用して衣服内飽和水蒸気を衣服外の空気と置換することによって発汗による放熱を促進することによって効果的に体温上昇が抑制されることを明らかにした(論文作成中)。 また,さらに実際の消防活動時にどの程度,人体への蓄熱があるのかをRMRから推測し,体温上昇をモデルで示すことを一般家屋火災と林野火災でモデル化することを試み報告している.(報告済,論文作成中)。 今年度は,研究をもう一段階進め,熱平衡方程式を用いて消防員装具を着用したときの体温上昇を予測し,消防活動時のガイドライン作成を試みる.
|