2004 Fiscal Year Annual Research Report
環境汚染微量金属(ヒ素)の慢性摂取による炎症及び発癌の分子機構の解明
Project/Area Number |
15710043
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Research Institution | Tokyo University of Pharmacy and Life Science |
Principal Investigator |
櫻井 照明 東京薬科大学, 生命科学部, 講師 (30266902)
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Keywords | ヒ素 / 慢性ヒ素中毒 / メチル化代謝 / アポトーシス / グルタチオン / 金属 / 活性酸素 / ヒ素分析 |
Research Abstract |
井戸水などに含まれる無機ヒ素はヒトの体内に入ると還元型グルタチオン(GSH)の働きにより酵素的メチル化代謝を受け、最終的にdimethylarsinic acid(DMA)に変換すると考えられている。また、このメチル化代謝過程で一時的にメチルヒ素-GSH複合体が生成すると言われる。最近、化学合成されたメチルヒ素-GSH複合体の細胞毒性が非常に強い事が報告され、ヒ素のメチル化代謝はヒ素の毒性を増す反応であるという説が有力となっている。しかし、仮説は仮説であり、世界的にみてもヒ素のメチル化代謝の真の意義は明らかにされていない。我々はこの課題を解くために、先ずDMA-GSH複合体の合成を試みた。DMAのヒ素分子は5価であるがDMA-GSH複合体(DMA-SG)のヒ素分子は3価であるので、本化合物は不安定で化学合成が難しいとされていたが、我々は文献に示されている方法より遥かに簡単な方法でDMA-SGの合成に成功し、特殊な薄層クロマトグラフィーを用いた分離法で純品を得る事ができた。様々な化学分析により、この合成DMA-SGはヒトの体内で生じると報告されているDMA-GSH複合体と構造が一致した。DMA-SGの細胞毒性をラット培養肝実質細胞などを用いて詳細に解析したところ、DMA-SG自身は分子量が大きくて細胞内に侵入できず毒性を示さないが、通常の細胞培養用液体培地に溶かすと容易に一SG基がはずれて3価DMAとなり、これが猛毒(50%細胞致死濃度がnMレベルで無機3価ヒ素より毒性が強い)である事が判明した。しかし培地にヒトの血中レベルのGSH、アルブミンや血清などを添加するとDMA-SGの形が維持されて細胞内に入れず毒性は全く示されなかった。言い換えれば、ヒトの体内でヒ素のメチル化代謝過程でDMA-SGが生成されたとしても、通常のヒトの体内では恐らく毒性は現れ得ない事が推定された。
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