Research Abstract |
物質の扱える最小単位である原子,分子をナノレベルで制御する,すなわちナノテクノロジーの究極の目的の一つは「分子機械」の製作である.本研究室では先に,分子機械「光動力キラル分子モーター」の開発に世界で初めて成功した.キラル分子モーターは,光エネルギーによる二重結合のシス-トランス異性化を回転の動力源とし,分子のキラリティーによって回転方向の制御に成功している.また,360度回転し原形に戻ることから連続回転が可能である.しかし,モーターの回転のステップの1つである熱異性化反応が遅いことに改良の余地が残されていた.本年度の研究では,熱異性化反応における反応速度を向上させる目的で,キラル分子モーターの新規五員環型モデル(2S,2'S)-(M,M)-(E)-1aを開発し,回転の動力学を調べた. 前駆体のキラルケトン(S)-(+)-2はCSDP acid法によって合成し,絶対配置をX線結晶構造解析で決定した.キラルケトン(S)-(+)-2を用いてMcMurry反応を行い,光学活性な五員環型分子モーター(2S,2'S)-(M,M)-(E)-1aを26%の収率で合成した. 合成した五員環型分子モーターおよびそのモーター回転異性体の光異性化,熱異性化をCDスペクトルで追跡し,モーターの回転の動力学を明らかにした.光異性化は,20秒程度でほぼ一方向に反応が起こることがわかった.また,不安定異性体(2S,2'S)-(P,P)-(E)-1dの熱異性化における活性化エネルギーE_aは16.8kcal mol^<-1>であり,これは六員環型分子モーターに比べて約8kcal mol^<-1>も低い値であることがわかった.以上,各ステップの反応速度の向上により,新規五員環型分子モーターの回転の高速化を達成することに成功した.
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