2004 Fiscal Year Annual Research Report
湖沼における植物の種多様性の保全のための発芽生態学的研究
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15710173
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
西廣 淳 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 助手 (60334330)
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Keywords | 湖沼 / 水生植物 / 種子発芽 / 霞ヶ浦 / 土壌シートバンク(埋土種子) / 保全生態学 / 自然再生 / 水位変動 |
Research Abstract |
(1)発芽特性のスクリーニング 水位変動パターンの人為的改変が湖岸の植物の発芽の失敗を招く可能性を検討するために、霞ヶ浦の湖岸に生育する25種の植物を対象に、発芽に対する温度条件の効果と冠水の効果を検討した。春に発芽する植物がもつ特徴として知られる休眠解除に対する低温の要求性は、14種で認められた。裸地を検出して発芽する性質として知られる変温要求性は、8種で認められた。冠水による発芽の抑制は18種で認められた。湿潤条件と冠水条件をシミュレートした野外実験から、対象としたすべての種の実生出現時期は春に集中していることが示された。また実生定着に対する冠水による抑制効果は19種で認められた。これらのことは、湖岸の植物の多くは、春季に水位の低下によって露出した地表面で発芽することに適応していることを示唆している。今日行われている、冬季から春季にかけて水位を上昇させる管理は、発芽・定着適地の喪失という影響を通して、湖岸植生帯を構成する多くの種の更新を阻害すると予測される。 (2)湖岸植生帯における実生定着条件 水位変動パターンの人為的な改変が、湖岸の植物の種子からの更新に及ぼす影響を明らかにするために、霞ヶ浦において、植物の実生更新に及ぼす要因の研究を行った。残存する植生とその周辺における微地形の測量の結果、過去の水位条件の下では春季には冠水しなかったハビタットも、現在の水位管理のもとでは冠水していることが明らかになった。比高の異なるミクロサイトにおける実生の出現と定着の分析の結果、春季におけるミクロサイトが冠水している日数と、同時期における実生の発生密度および種数の間には有意な不の相関があることが示された。実生の死亡は、大抵の場合、冠水と同時に生じていた。人為的な水位上昇による実生更新の失敗は、近年の霞ヶ浦における湖岸植生の衰退の主要なメカニズムの一つであると考えられる。
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Research Products
(2 results)