2004 Fiscal Year Annual Research Report
言語を語る主体の生成の解明・・・ハイデガー哲学の批判的改訂の試み
Project/Area Number |
15720003
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
古荘 真敬 山口大学, 工学部, 助教授 (20346571)
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Keywords | ハイデガー / 言語 / 理由の空間 / 自然主義 / 技術(Gestell) / ニヒリズム / 生と死 / 理由(ratio) |
Research Abstract |
我々は、"言語主体としての<私>もまた動物的生命との連続を欠いては生成しえない"という原始的事実の意味を明らかにし、そのことによって、"人間存在と動物存在との絶対的断絶"を語るハイデガー的思考の枠組みを流動化することを目指してきた。しかしながら、この我々の探究の方向性は、いわゆる「自然主義」や「認識論の自然化」等の動向からは、厳密に区別されなければならない。 なるほど、言語的に分節される人間存在の構制は、ある意味において、動物的身体の次元における原初的記号交換や、さらには生命以前の物質的エネルギーの交換の次元へと依存すべく差し向けられていると言わねばならないが、この事実を思考するにあたって、「近代」におけるヒト・モノ一斉の技術的徴発の構制(いわゆるGestell)は、ハイデガーの述べるとおり、「自動的な機械と生物の区別」を消去し、「生物」を「情報の無差別的過程へと中性化」する「サイバネティックス」へと向かおうとしている(Denkerfahrungen, 1983, S.141.)。しかし、そのようなサイバネティックスによる算定可能性・制御可能性にもとづいて表象された世界地平のうちに、我々は、どのような我々自身の「生」と「死」の意味を見出すことができるだろうか。我々は、ここに垣間見える「ニヒリズム」の歴史的文脈のうちにおいて、自らの探究の針路をあらたに決断し直さねばならないだろう。 日本現象学会編『現象学年報20』に発表した論文において、我々は、こうした問題意識のもと、後期ハイデガー哲学におけるラチオ(ratio=理由)概念の批判に学びつつ考察を展開し、いわゆる「理由の空間」の生成こそは、「ニヒリズム」と「Gestell」の結実を準備し、「戯れ」としての本来的「自然」の概念を切り捨てて、我々の「生」と「死」の意味を空洞化した存在史の展開点であったと推察するに至った。
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