2003 Fiscal Year Annual Research Report
抵抗する翻訳―太平洋戦争期における英文学作品の翻訳について
Project/Area Number |
15720046
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Research Institution | Obihiro University of Agriculture and Veterinary Medicine |
Principal Investigator |
齋藤 一 帯広畜産大学, 畜産学部・畜産生命科学講座, 専任講師 (20302341)
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Keywords | コンラッド / 翻訳 / 植民地主義 / 市川房枝 / 加藤寿々子 / 女性問題 |
Research Abstract |
平成15年度は、太平洋戦争期に出版されたジョーゼフ・コンラッド(Joseph Conrad)の翻訳を収集することに努めた。具体的には、『オルメイヤーの阿呆宮』(Almayer's Folly)、『海の鏡』(The Mirror of the Sea)、『青春』(Youth)、『闇の奥』(Heart of Darkness)などの翻訳のコピーを入手し、通読することに努めた。その結果、これらの戦時下におけるコンラッドの翻訳は、西欧人による西欧植民地主義批判として紹介されていたこと、そしてその意図は、暗に日本の植民地主義を肯定することであったことが明らかになってきた。この点については、平成16年度においても、さらなる文献収集に努める予定である。 また、入手した翻訳の中でも、特に『オルメイヤーの阿呆宮』の翻訳を出版した加藤寿々子の戦時下における仕事に注目した。具体的には、加藤と、戦前・戦後にかけて女性運動の指導的立場にあった市川房枝との交流や、加藤と市川が共に参加していた女性向け雑誌の記事を閲覧し、加藤が編集者としてどのような立場から記事を編纂していたのかを分析・検討してみた。その結果、加藤の翻訳は、他のコンラッドの翻訳とは多少異なり、西欧人による西欧植民地主義批判として、暗に日本の植民地主義を肯定するものではなく、非西欧人の母と娘との関係を協調したものであったことがおぼろげながら分かってきた。平成16年においては、この点をさらに追求するべく、加藤の女性問題に対する思想や立場を深く掘り下げる予定である。
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