2003 Fiscal Year Annual Research Report
中世後期英文学に見られる王権と正義の概念に関する考察
Project/Area Number |
15720052
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小林 宜子 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 助教授 (80302818)
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Keywords | 中世後期英文学 / ジョン・ガウアー / 君主論 / 王権 / 正義 |
Research Abstract |
本年度はリチャード二世在位中に詩人ジョン・ガウアーによって書かれた三作品(Mirour de l'Omme, Vox Clamantis, Confessio Amantis)に焦点を絞り、その中で国王権力と法の関係がどのように論じられているかを考察した。これらの作品は各々異なる言語・文学様式を用いて書かれているが、「君主の鑑」の伝統に基づいて国王の権利と義務を詳細に論じた一節を共通して含んでおり、その中で国王がいかに法的権力を行使すべきか、より具体的に言うならば、法に従って正義を守り、犯罪人を裁くという国王の負うべき社会的な義務と、神から授かった慈悲(mercy)の力によって刑罰を軽減することのできる法を超えた国王の特権との間にいかにして折り合いをつけるべきかという問題を一貫して探究している。三作品に含まれた君主論を綿密に分析した結果、それらすべてがトマス・アクィナスやローマのアエギディウス等による神学的・哲学的論考、王権の法的解釈をコモンローやローマ法との関連で論じたブラクトンの著作、および俗語を用いることによって幅広い読者層に君主論を普及させたブルネット・ラティーニのLivre dou TresorやSecretum Secretorumの英訳書に多くを負っていることが証明されたが、にもかかわらず、リチャード二世即位直後の時期に国王権力の弱体化によって生じた社会秩序の乱れ、1381年の農民一揆の原因とその鎮圧の経緯をめぐる議会内の論争、国王による恩赦の多用とそれに起因する犯罪の増加に対する臣民の不満等、その時々の社会的・政治的情勢を反映して、ガウアーの見解が微妙に変化と揺らぎを見せていることが同時期の議会議事録・年代記との比較対照によって明らかになった。分析は、2003年5月8日にアメリカのミシガン州カラマズー市で開催された38th International Congeress on Medieval Studiesにおいて試論として口頭発表した後(題目"Principis Umbra : Kingship, Justice, and Pity in John Gower's Vox Clamantis")、その原稿を敷衍し発展させる形で論文("Principis Umbra : Kingship, Justice, and Pity in John Gower's Poetry")にまとめた。これは2004年度中にMedieval Institute Publicationsから刊行されるガウアー論文集に収録される予定である(Robert F.Yeager編、書名・刊行日は未定)。
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