2004 Fiscal Year Annual Research Report
中世後期英文学に見られる王権と正義の概念に関する考察
Project/Area Number |
15720052
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小林 宜子 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 助教授 (80302818)
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Keywords | 中世後期英文学 / 君主論 / 王権 / 正義 / ジョン・ガウアー / ジェフリー・チョーサー |
Research Abstract |
本年度は14世紀後半のイングランドで創作された詩作品(William Langland著Piers Plowman, Geoffrey Chaucer著Troilus and Criseyde, Tale of Melibee, Lak of Stedfastnesse, John Gower著Vox Clamantis, Confessio Amantis,作者不詳のRichard the Redeless)をおもな研究対象とし、各々のテクストが王権と正義の問題をいかなる政治的・社会的立場から論じているか、そうした見解が過去の哲学的文献(聖アウグスティヌス、ソールズベリのヨハネス、トマス・アクィナス、ローマのアエギディウス等の著作)からどの程度思想的影響を受けているか、また同時代に書かれた歴史的資料との間にいかなる見解の類似、相違が見られるかを考察した。これらの作品が書かれた時期は、対仏戦争の長期化に伴って生じた戦争の正義をめぐる種々の論争、反逆罪の意味とその適用法をめぐって激化したリチャード二世と諸侯との対立、1390年代に入って次第に暴君化したリチャード二世の国王としての適性を論じた多様な論議、1399年のリチャード廃位とその法的な正当化など、正義の守護者であるべき国王の権力と法の関係が深刻な問題として度々浮上した時代である。上記の詩作品の詳細な分析により、1)各々が過去の思想的著作に含まれる抽象的な議論を反復し敷衍する一方で、同時代の政治的混乱に敏感に反応して書かれたものであること、2)そうした反応を言語化する際の表現方法が、国王に対する助言や忠告といった直接的な形を取ったものから、社会の弱者(特に女性)が圧制の犠牲となった姿に焦点を絞って王権と法の間題を比喩的に描いたものまで多岐にわたることが明らかとなった。これらの研究成果の一部は、平成16年7月の国際チョーサー学会(グラスゴー大学で開催)で"Female Subjectivity and space in the Criseyde Story"という題で口頭発表された。
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Research Products
(1 results)