2003 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀アメリカ文学/文化におけるパッシングの政治学
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15720053
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
新田 啓子 東京学芸大学, 教育学部, 助教授 (40323737)
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Keywords | アメリカ / 文化 / アジア / 表象 / 男性性 / ハリウッド映画 / 家父長制 / クィア理論 |
Research Abstract |
自らが位置するアイデンティティの場を(無)意識的に隠蔽し、別の主体決定要素を装うことを意味するパッシング表象は、現在、非本質的な主体観念の実態を記すものとして大きな理論的関心を得ているが、今年度は以下の三点を中心に明らかにした。(1)パッシング概念が「人種」を核として生成した背景を調査し、それを思想史的に位置づける。(2)ハーレム・ルネサンス期に描かれた作品に現れ、モダニストの芸術活動にも影響を与えたパッシングの多様化の過程を整理する。(3)20世紀後期の文化作品で再生されているパッシングの特徴をまとめる。 まず(1)の課題については、2003年10月に米国ニューヨーク州のニューヨーク公立図書館および、コネティカット州のイェール大学バイネキー図書館へ出張し、一次資料を収集した。それにより明らかとなったのは、192,30年代の演技芸術が傾向的に試みていたと思われる、白人が黒人の芸能を実践することで行った性の表象である。人種の表現から性に関する意味を生産しようとするこの傾向は、当時の優生思想が、人種の混血を招く異人種性交を禁じていた点から見て非常に興味深い。つまり同時代的観念において、性と人種は緊密に係わり合い、社会制度を裏付けていたのである。2003年12月13日、慶應義塾大学で行われたアメリカ文学会東京支部会のシンポジウムで、私はこの資料解釈を軸とする研究報告を行ったが、それは、来年度には活字化されることとなっているこの課題の研究序説となる。課題(2)については、ハーレム・ルネサンス期の出版文化の様相を明らかにすると思われるマイクロフィルム資料を購入し、今年度は専らその解釈を進めた。この課題に関しても、その研究成果は、来年度に出版予定の共著書の中で公開される予定である。そして課題(3)については、1970年代のハリウッド映画に用いられた人種と性のパッシングテーマを取り上げた。これは、アジア人男性と武術表象を中心に描かれたものである。アジアの表象は、既存のジェンダー・イメージや、家父長制のイデオロギーをいかに撹乱しているか。ここではその点を分析した。これは雑誌論文業績として、2003年5月に発表された。
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Research Products
(1 results)