2004 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀アメリカ文学/文化におけるパッシングの政治学
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15720053
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
新田 啓子 一橋大学, 大学院・言語社会研究科, 助教授 (40323737)
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Keywords | モダニズム / 黒人 / パッシング / アイデンティティ / ハーストン、ゾラ、ニール / アメリカ大統領制 / 性 / 人種表象 |
Research Abstract |
平成16年度前半には、15年度に収集・分析してきた資料と、20世紀初頭のアメリカ思想家・芸術家の多くに共有されていた優生学的人間観との関連について、具体的な考察を進めた。昨年私が注目した主たる資料は、1920〜30年代の演技芸術に傾向的に見られた、白人による黒人芸能の模倣についての文献や視聴覚資料であった。人種表現の通念(ステレオタイプ)から性に関する意味を生産しようとするこの傾向は、当時の優生思想が、人種の混血を招く異人種間性交を禁じていた点からみて非常に興味深い。つまり同時代的観念において、性と人種は緊密に係わり合い、社会制度を裏付けていたのである。 こうした基礎文献研究の傍ら、今年度は、主に学会シンポジウム講師として、パッシング概念を軸に分析し得るアメリカ文化の諸相について報告した。6月の日本アメリカ学会では、アメリカ大統領制を批判する大衆言説がパッシング表象の影響を受けてきた事実に関しての研究を発表し、7月のアメリカ文学会東北支部会では、30年代の黒人女性作家・文化人類学者、ゾラ・ニール・ハーストンの言説を検証し、当時の黒人のモダニズム的観念が、いかにパッシングから自我の脱本質化を導き出していたかを発表した。またこれらと並行し、『現代思想』6月号や17年4月刊行の共著書においては、現代主体論/他者論を哲学的に概観しつつ、パッシングをテーマとする文学作品や演劇が、いかにそうした理論の最尖端を象徴化しているかを執筆した。 年度後半は、12月から1月にかけて赴いたアメリカ文献調査に向けての準備作業を行った。その調査で収集したのは、日本でも昭和5年に翻訳されたBen Hechtという大衆作家の本、並びに1920年代アメリカ黒人思想を反映した雑誌記事である。これらから、当時の日本の大衆文化にまでも移入されていた人種観念と、それがいかに表象されたかを探るのが今後の研究課題となる。
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Research Products
(3 results)