2004 Fiscal Year Annual Research Report
1800年前後のドイツの庭園文化における身体性に関する研究
Project/Area Number |
15720059
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
濱中 春 島根大学, 外国語教育センター, 助教授 (00294356)
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Keywords | 十八世紀 / ドイツ / 庭園 / 健康 / 造園術 / 養生術 |
Research Abstract |
今年度は、十八世紀の風景庭園における健康の表象をめぐる記述にもとづいて、当時の造園術と養生術の言説を比較し、風景庭園における健康の概念について考察した。 十八世紀に発展した造園術と養生術という二種類の言説としてヒルシュフェルトの『造園術の理論』(1779-85)とフーフェラントの『長寿法』(1797)を比較すると、両者はともに同時代の瘴気説の影響を受けているだけではなく、人工や文明の対極としての「自然らしさ」というコードを共有していることが明らかになった。また、風景庭園における自然の美の感覚的な享受は、人間の心身全体の健康をめざす十八世紀の養生術においては健康に役立つと考えられている。造園術と養生術の言説の間には潜在的な共通点があり、美学の問題は医学の問題に転換され得る可能性を含んでいるのである。 また、庭園における健康という問題は養生術の中でも特に温泉療法と強く結びついている。十八世紀末頃には、造園術と温泉医学は温泉地の「美化」という共通の関心の対象を持つようになるだけではなく、両者はその対象をめぐる言説においても一致している。ヒルシュフェルトによる温泉地の庭園論と、ドイツの代表的な温泉地であったピュルモントの温泉医マルカルトの『ピュルモントの記述』(1784-85)は、風景記述のモードや自然と人工の関係のとらえ方、環境が精神に与える影響と心身の相関関係の認識という点で相互テクスト的な関係にあり、その結果、両者において同一の特徴を持った言説が形成されている。 十八世紀末には、造園術と養生術の言説の間に共通点や相互作用が認められ、庭園をめぐって美的な問題と医学的な問題とを明確に区別することはできない。両者を媒介する健康の概念は、近代的なリゾートの思想の底流となって受け継がれてゆくのである。
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Research Products
(1 results)