2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15720067
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
佐藤 正樹 早稲田大学, 文学部, 助手 (40350376)
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Keywords | 仏文学 / 文学論 |
Research Abstract |
『新百話』、『エプタメロン』など、明らかにボッカチオの『デカメロン』の影響を受けた作品以外にも、十五世紀後半から十六世紀前半にかけてフランスで作られた書物には、挿話をまとめた体裁をとったものが多い。ラブレーの『第三の書』、『第四の書』については、従来からこの「モデュール構造」の影響が指摘されているが、叙事詩的な構成を持った『パンタグリュエル』や『ガルガンチュア』も、わたしたちの目から見ると、一貫した筋に沿って緊張感が高まるようには出来ておらず、むしろ各挿話の自律性が高いように思われる。今年度は特に『パンタグリュエル』と『ガルガンチュア』の作品分析を行い、これまで一部の作品の特徴とされてきた「モデュール構造」を、十六世紀半ばまでのフランス語散文物語の一般的な文体的特徴として捉える視点が有効であることを明らかにした。今年度はそれと並行して、十六世紀初頭のリヨンの出版動向を出来るだけ綿密に調査した。必要最低限の資料は手元にそろえたが、現在入手不可能でかつ日本にない資料については、冬休み中にジュネーヴ大学に出張して参照した。この調査から確認されたことは、当時フランス語出版の中心地であったリヨンでさえ、フランス語散文物語が全出版物の中で占める割合は小さく、また古い物語の焼き直しがほとんどで新しい作品はほとんど生産されていないという事実である。十六世紀フランス語散文物語に共通して見られる有機的構造の欠如は、当時の俗語散文が持っていた生産性の低さと密接なかかわりを持っていることが予想される。次年度は、文体的特徴とテクスト生産の状況との関係をさらに明らかにしていきたい。
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