2004 Fiscal Year Annual Research Report
通時的変化を反映した共時的音韻現象に関する日露対照言語学的研究
Project/Area Number |
15720087
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
安藤 智子 富山大学, 人文学部, 助教授 (00345547)
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Keywords | リャザン方言 / 同化・異化型ヤ弁 / 強勢 |
Research Abstract |
研究課題である日本語・ロシア語両言語の音韻現象のうち、今年度の主な調査対象はロシア語とした。その中でも特に、新上昇調と呼ばれるかつての音調が関与したと考えられている、後舌中母音の二重母音的な音への通時的変化、およびそれが強勢音節に存在する場合の現代諸方言における強勢直前音節の母音の音価の類型について、調査を行った。その通時的変化の痕跡を残す方言の資料を収集するため、まず国内に存在する文献から調査可能な地域の方言について調査した。その結果として、調査対象を、いわゆる同化・異化型ヤ弁を持つヨーロッパ=ロシア東部(リャザン地域)方言に絞り、ネイティブスピーカーに対するアンケート調査・インタビュー(面接によるDAT等の機器を用いた音声の記録)・文献調査によって行う準備を進めた。その準備が整った平成17年2月、モスクワにおいて追加的文献調査を行い、続いてリャザン地方へ赴いたが、研究協力者の都合により面接による調査は断念せざるをえず、録音された方言の音声資料を入手したほか、この地域のみに保存されているという希少文献によりヨーロッパ=ロシア東部(リャザン地域)方言に関する調査を行った。帰国後、これらの資料を整理・分析しているところであるが、現在までに以下のことが分かっている。 1)東部(リャザン地域)方言においては、強勢直前音節の頭子音が口蓋化子音である場合、その音節の母音は強勢音節の母音によって音価が決定される。すなわち、異化により、強勢音節の母音が狭母音である場合には広母音、強勢音節の母音が中母音である場合には狭母音となるが、強勢音節の母音が広母音である場合には同化により広母音となる。 2)ただし、同方言において、新上昇調に由来する後舌中母音および東スラヴ語において狭めの中母音であった前舌中母音は、それぞれ強勢音節において二重母音的に発音され、その直前の音節の母音は広母音となる。
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