2004 Fiscal Year Annual Research Report
「版本狂言記」を主軸に据えた狂言詞章の分析と近世期口語の再構築
Project/Area Number |
15720107
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Research Institution | Junshin Junior College |
Principal Investigator |
荻野 千砂子 純真女子短期大学, 国文科, 講師 (40331897)
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Keywords | 狂言本 / 狂言詞章 / 版本狂言記 / 保教本 / お礼のことば / かたじけない / ありがたい |
Research Abstract |
今年度はまず第一に、「版本狂言記」の資料性を調査する一つの手段として『保教本』注記との比較調査を行った。『保教本』は江戸享保頃に書写された鷺流の狂言本であり、本文の横に他流派に関する多数の注記が施されている。「『保教本』注記から見た狂言詞章の考察」として、論文の中では次の三点を指摘した。まず一点目に、「版本狂言記」の中でも素性が分からないとされる曲に注記と一致する詞章があり、初期の二編「正編」「外五十番」には共通する詞章があることを明らかにした。また二点目として、大蔵流についても対比を行った。江戸初期書写の『虎明本』と江戸後期書写の『虎寛本』と注記とを対比させると、現存の大蔵流狂言本には残存していない詞章が存在することを指摘した。さらに鷺流保教家の狂言家元としての意識変化についても言及した。 また、当初の計画にはなかったが、語彙の面からみた「版本狂言記」の資料性に関して調査を行い論文にまとめた。お礼のことばである「かたじけない」と「ありがたい」について狂言資料を調査し、さらに江戸時代を通しての両語の盛衰とその盛衰の理由を考察した。 計画第二の『保教本』のテキスト化は少しずつではあるが、着実に進めている。また、計画第三の狂言本を通しての指示詞発達については研究の途中である。指示副詞を調査しているうちに、ソ系の指示副詞は発達が緩やかだったのではないかという感触を得て、指示代名詞と指示副詞は体系化を一にする必然性はなかったのではないかという仮説を持ち現在も研究を行っている。 計画第四の研究発表に関しては、論文発表に加え、中国上海復旦大学で開催された「2004年度東アジア日本語教育・日本語文化研究学会」において口頭発表を行った。
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