Research Abstract |
本研究は,ボルネオを基点とする開発事業の推進と国際(あるいは越境)労働力移動との関係を解明し,先住民社会におけるその影響について検討することを目的としている。 本年は,昨年に引き続き,マレーシア・サラワク州およびインドネシア・西カリマンタン州において現地調査を行った。サラワク州では,森林省や個別の木材伐採企業への聞き取りを行った。その結果,インドネシアからマレーシアへの非合法の木材輸入が増加傾向にあることが分かった。しかし,それは,インドネシア側としては非合法の輸出になるが,マレーシア側では合法的な輸入とみなされる場合があり,国境を越える段階で制度の違いから同じ商品でも取り扱いが異なるという具体的事例について,新たな知見を得ることができた。 一方,インドネシア・西カリマンタン州での調査では,木材の伐採,運搬作業における末端の労働状況について観察することができた。そこでは,おもにマレーシアの開発企業が操業を行っており,木材伐採道路や村々をつなぐ道路の建設にも,マレーシア企業が深く関わっている状況を確認できた。 西カリマンタン州では,先住民の複数の村落でも調査を行い,農業生産や土地利用,現金収入手段,出稼ぎなどに関する聞き取りを行うことができた。その結果,多くの先住民が木材企業との関係があり,またそうでない場合でも,日常的にマレーシア側への移動を繰り返しながら,経済的にはマレーシア側での活動に大きく依存しているという状況が見られた。また,木材景気の活況は,国際移動・越境移動だけでなく,インドネシア国内の他地域からも多くの移動者をひきつけており,国内移動と国際移動との連関について,ひとつのヒントになりうる具体的事例を知ることができた。
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