2005 Fiscal Year Annual Research Report
医療保障法の日英比較研究-個人・社会・国家の役割と責任について
Project/Area Number |
15730029
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
国京 則幸 静岡大学, 人文学部, 助教授 (10303520)
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Keywords | イギリスの医療保障 |
Research Abstract |
イギリス医療保障制度(NHS)は、保守党のサッチャー期に、新自由主義的な考え方のもと、消費者主義的観点から「個人」を強調する形で大きく変容させられた。その方法は、「効率性」の追求-内部市場(擬似市場)の導入-と、医療提供の「管理強化」-NHS内の総括管理者の導入-に象徴されるものであった。これらにより、伝統的に社会の中の医師集団の手にあった医療提供のしくみは、医師以外の者による大きな影響力のもとにおかれていくことになる。このような変化はイギリスのそれまでの医療保障にとって一定の意味はあったものの、他方で、社会階層による健康の不平等などの問題も顕在化させることになった。結局、医療提供の管理強化・市場(経済)原理の徹底だけでは、予定調和的には問題は解決しないことが明らかになった。そこで、労働党のブレアは、「公正」と「効率」の両方を追求するいわゆる「第三の道」を掲げて改革に着手することになる。内部市場を廃止し「パートナーシップ」による協同によって医療の「効率」と「質」の両方を確保していくこと、プライマリ・ケアの重視と保健・医療と福祉の連携などを標榜し、制度改革を実行していった。 このような、制度改革の基底にある考え方の変化から日本の医療改革が学ぶ点は多い。また、あわせて注目しなければならないのは、イギリスにおける医療保障法の展開である。NHSにおける医療保障の権利の問題や、政策(議会)に対する司法(裁判所)の関与の可能性など医療保障の法的コントロールを明らかにしてきている。他方、日本の医療保障の問題は、財政問題に端を発し、費用増大の抑制の方策のための負担増および規制緩和の議論が中心であり、医療保障を実現するための法的コントロールの全体像を今後さらに明らかにする必要がある。
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