2003 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15730123
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
神林 竜 東京都立大学, 経済学部, 助教授 (40326004)
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Keywords | 労働契約 / 諏訪製糸業 / 民事判決原本 / 笠原組資料 / 前貸金 / 解雇権濫用法理 / 就業体験 |
Research Abstract |
本研究は、長野県諏訪地方の器械製糸業とアメリカ合衆国における19世紀繊維産業を中心的な題材とし、可能ならば近年の日本の労働市場の制度変化も考慮しながら、労働市場に関わる法律などのフォーマルなルールの実効力について実証的に検討していくことを目的としている。 まず、日本については、諏訪地方における労働契約の執行状況を確認するために、東京大学法学部新田一郎氏の厚意により東京大学法学部に所蔵されている長野地方裁判所上諏訪区・伊那区・松本区裁判所における明治30年代末から大正年代の判決原本を閲覧することができた。ただし、判決原本は膨大な量にのぼるため、現段階ではすべては分析できていないが、ある特定事業者による訴訟が集中する傾向があることがうかがえた。同時に、岡谷市立岡谷蚕糸博物館に所蔵されている笠原組の会社財務データを閲覧し、労働者に対する前貸金の執行状況を調査した(出張4回)。これもまた詳細な結論がでているわけではないが、おおまかにだいだい2〜3割の前貸金が焦げ付いていたことがわかった。さらに、前貸金の損金参入は労働者によって是々非々に行われており、労働者との関係と会社との関係・前の勤務成績などが前貸金の執行を決める重要な要素となっていたことがうかがわれる。さらに、昭和50年代に整理解雇を実行し訴訟になった会社にヒアリングをかけ、現代において労働法のとりわけ判例法理が雇用調整行動にどれだけ拘束力をもつかについて調査した(出張3回)。同時に、労働者の定着傾向に重要な影響を与えると思われる在学中の就業体験について実地に見学した(出張3回)。このような考察の結果、労働現場において法律が作用するためには、労働者と企業との関係、企業と労働者が所属する共同体との関係などが重要であることがうかがわれることが明らかになってきた。 なお、今年度予定していた米国への出張は、資料整理についての先方との調整がつかなかったため、来年度に実行したほうが効率的だと判断した。
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