Research Abstract |
平成16年度は,新株予約権が発行された場合における,クリーン・サープラス会計と残余利益モデルによる普通株主持分価値の推定との関係に着目した。過去に使用された会計手続は,現在と将来の会計数値には影響を与えるが,残余利益モデルの適用には影響を与えない。一方,将来の残余利益を予想する際に使用される会計手続は,残余利益モデルの適用に決定的に影響を与える。このとき,資本概念として,pure-equity概念を採用したときにはsuper-clean surplus会計が,mixed-equity概念を採用したときにはmixed surplus会計が首尾一貫した会計手続となる。 わが国の商法ではpure-equity概念が採用されている。このとき,「ストック・オプション等に関する会計基準」を使用して,普通株主持分価値を推定した場合には,その評価額は過大となることが確認された。これは,pure-equity概念の下でのストック・オプションの発行コストのすべてが認識されないためである。ただし,1.現行の会計処理を使用して残余利益を予想した場合には,予想行使日前において推定値は過大となるが,2.会計処理基準案を使用した場合には,予想発行日前には,残余利益モデルによる推定値は本質的価値に一致し,ストック・オプションの発行日から権利行使日前までの期間において,推定値は本質的価値よりも過大となることが確認された。この議論は,典型的な条件変更であるリプライシングを「差し替え型」で会計処理するときにも当てはまる。 また,現在,月次データとして集計した,わが国の証券取引所の新株予約権の付与と行使の記録によって,オプションの行使比率を被説明変数,行使月の株価リターン,「株価/行使価格」比率,直近1年間の株価ボラティリティー等を説明変数として,わが国のオプション保有者の行使要因を検証している段階である。
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