2003 Fiscal Year Annual Research Report
国際会計基準設定過程における参加構造の変化と会計理論の役割に関する研究―金融商品会計と業績報告についてのケース・スタディー
Project/Area Number |
15730220
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
澤邉 紀生 京都大学, 経済学研究科, 助教授 (80278481)
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Keywords | 国際会計基準委員会 / 金融商品 / 証券監督者国際機構 / G4+1 / 会計基準設定過程 / 全面的公正価値モデル / 混合属性モデル |
Research Abstract |
国際会計基準設定過程における参加構造の実体を調査し,急激に変化している会計理論がどのように国際会計基準(国際財務報告基準)に反映されているのかを,今年度は「金融商品の会計基準」を対象として明らかにした.すでに行っていた英国とカナダにおけるヒアリング調査に加え,今年度は日本とスペインにおいて追加的ヒアリング調査を行ない,国際会計基準設定過程における実質的参加構造および理論の伝播についてデータ収集を行った.これまでの調査結果を整理することで,1992年94年にかけてのIOSCOの方針転換およびG4+1の活動が,金融商品会計起草委員会の意思決定に影響を及ぼしたうえに,さらに起草委員会の再編を促したことが明確となった.1990年代前半に活動していた第一次起草委員会は,混合属性モデル・アプローチを採用し,現実に利用されている実務のなかからベスト・プラクティスと呼べるものを抽出し,それを整理することで金融商品の会計基準を設定しようと試みた.この意味で,混合属性アプローチの採用は,同時に,実務から帰納的に基準を導き出すという基準設定へのアプローチ(帰納的アプローチ)の採用を意味していた.しかし,このような帰納的アプローチによって準備された会計基準案では,利害関係者の合意を得ることはできなかった.利害関係者は,異なる二つの立場から,基準案に反対していたのである.市中協議を通じて,利害関係者が相容れることない二つの異なる立場に分裂していることが判明した時点で,混合属性アプローチの根本的問題が起草委員会メンバーの間で認識された.IOSCOからの圧力を受けたIASCは起草委員会の再編を行い,従来の帰納的な会計基準設定アプローチの見直しを暗に新起草委員会に求めた.このような背景をもって新起草委員会は,混合属性モデル・アプローチを放棄し,全面的公正価値モデル・アプローチを採用した.この基準設定アプローチの転換において,現代金融理論の影響を色濃く受けた会計理論が決定的な役割を果たしたことが調査の結果から確認された.
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Research Products
(1 results)