2004 Fiscal Year Annual Research Report
先端医療技術の普及が家族に与える影響に関する社会学的研究
Project/Area Number |
15730238
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
武藤 香織 信州大学, 医学部保健学科, 講師 (50345766)
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Keywords | 生体肝移植 / 自発的意思 / ドナー(臓器提供者) / 当事者参加型研究 |
Research Abstract |
昨年度は、当事者団体が先端的な医学研究とどのように向き合ってきたのかについて考察する機会を得て、医学研究に対する当事者自身からの要請のあり方などについて検討した。今年度は、日本国内において、当事者自身による働きかけによって、医療のあり方を評価する調査に参画する機会に恵まれたため、他の当事者団体のあり方と比較しながら、多くの時間と労力をこちらに割いた。 2004年春より生体肝移植の全ドナーを対象とした質問紙調査に協力し、調査票の策定とデータの整理をおこなった。さらに、本データを用いて、家族とかかわりのある設問を取り上げ、生体肝移植のみが治療の選択肢として残された家族にとっては、どのような選択に迫られるのかについて、より深く検討をおこなった。また、生体肝移植と遺伝子診断とかかわる可能性のある疾病団体などに依頼して、調査票を策定する段階から調査結果評価の過程にいたるまで意見を集約し、日本でも例の少ない「当事者参加型研究」を開始し、継続しているところである。 わかったことは、特にドナー自身の健康状態のほか、ドナーになるという選択肢をめぐっての圧力については、「自発的な意思」というよくいわれる言葉における「自発性」は、生体肝移植という治療選択肢しかなく、かつドナーにならなければ、患者は亡くなるしかないという状況下では、行使するのが困難であることが示唆された。また、特にレシピエントを失った家族の場合には、自身の傷も癒えないなかで患者の葬儀の準備に追われること、自身の提供した臓器に対する自責の念をもったり、無力さに苛まれることなど、通常の末期医療のプロセスとは異なる経過をたどることが明らかとなった。生体肝移植は、先端的な医療ながらも一部の疾患では保険適用されるなど、通常の医療としての普及過程をたどっているが、医療施設のレベルでドナーに対する診療プロセスを見直すほか、ドナーとなりうる人の法的な保護を求めていく必要があることが示唆された。
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Research Products
(5 results)