2003 Fiscal Year Annual Research Report
エーリッヒ・フロムにおける破壊性とナルチシズム研究の現代的意義―現代社会における破壊性への社会学的研究
Project/Area Number |
15730257
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
出口 剛司 立命館大学, 産業社会学部, 助教授 (40340484)
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Keywords | エーリッヒ・フロム / ナルシシズム(ナルチシズム) / サディズム / ネクロフィリア / ニヒリズム / 存在論的不安 / 存在の透明化 / アディクション |
Research Abstract |
従来,フロムの業績に対する評価は,主著『自由からの逃走(Escape from Freedom)』(以下『逃走』と表記)を軸に構成されてきたが,「存在(being)」の透明化,存在論的不安,共依存や動機なき殺人の広がりが指摘される今日,これまで注目されることのなかった後期の攻撃性研究(『悪について(The Heat of Man)』『破壊(The Anatomy of Human Destructiveness)』)の現代的意義が高まっている。フロムは66年代以降,『逃走』における大衆社会論を発展させることにより,サディズムやネクロフィリアの概念を用いつつ,当時,問題化したナルシシズム(ナルチシズム)や攻撃性の研究に方向を転じていった。当時この分野の研究は『ナルシシズムの時代』(ラッシュ)『父親なき社会』(ミッチャーリッヒ)の心理学的研究が主流であったが,フロムはナルシシズム及び攻撃性に対し,社会心理学的観点からだけでなく,「ニヒリズム」という実存主義的な「存在思想」観点から基礎概念を設定することにより,近・現代社会に対するトータルな批判的視座を獲得している。とくに攻撃性研究の基礎概念であるサディズムは,フロイトの影響だけでなく,ニヒリズムの提唱者ニーチェの「権力への意思」「良心の疚しさ」の観点が背景に据えられており,元来,死体愛を表したネクロフィリアも,ハイデガーによる後期の技術批判の観点が踏まえられている。 現在,上述の心理学的なナルシシズム=攻撃性研究に代わり,社会学においても臨床社会学的な観点から児童虐待,アルコール依存症,ドメスティック・バイオレンスなどのアディクション(addiction)に対する取り組みが本格化している。そのなかで後期フロムの攻撃性研究は,これら理論的,実証的研究の成果を人間の「存在」論的深みにいて位置づけるトータルな視座を提供する役割を果たすものである。
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