2003 Fiscal Year Annual Research Report
いじめ場面における安心の提供問題に関する社会心理学的研究
Project/Area Number |
15730282
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Research Institution | Sapporo International University |
Principal Investigator |
大野 俊和 札幌国際大学, 人文学部, 講師 (70337088)
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Keywords | いじめ / コミットメント問題 / 人質の供出問題 / コミットメント / 学校問題 / 被害者 / 加害者 / 攻撃 |
Research Abstract |
いじめが生じる際、そこには必ずコミットメント問題(Schelling,1960)が伴っている。すなわち、被害者はいじめが生じていることを通報したいが、通報した結果、担任が不適切な介入を取ることで事態が悪化することを恐れている。担任は介入したいが通報がない限りうまく介入できない。この間題の解決においては被害者のもつ通報の効果への期待を高めることが必要である。この点について本研究で行った質問紙調査の再分析結果について報告する。 再分析の結果、数ある担任教師の対策のうち唯一、担任教師がクラスの生徒たちの前でいじめの加害者には罰を与えると話したことがある場合の方が通報の効果への期待が高いことが示された。この結果は、これまでの実証研究から2通りの解釈が可能である。1つの解釈は担任による罰の公言自体が人質の供出(Hostage posting)方略という形でコミットメント問題を解決しているとする合理主義的解釈である。つまり、担任教師は、クラスの生徒に公言することで被害者に公言通りに罰が履行されない場合にはクラスの生徒たちからの非難に甘んじるという言質(人質)を与えることで問題を解決しているのではないか。もう一つの解釈は、コミットメント問題解決装置としての感情の存在論(Frank,1988)に基づくポスト合理主義的解釈である。つまり、罰を公言するような教師はいじめに限らず事あるごとに怒りやすい人物であると推測される。この怒りやすいこと自体が、介入することが教師にとって不利益な状況であっても、怒りにかられて不利益を度外視しても介入に踏み切るというシグナルとなっているため被害者は通報が効果をもつと考えるのではないだろうか。 以上の点について、さらにインタビューおよび調査、実験によって考察を深めるとともに、今後、罰の公言といった個人的資質に左右されない、多くの人々にとって使用可能なコミットメント方略を生み出す制度、そしてその制度成立の条件について理論的考察を深めることにしたい。
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