Research Abstract |
本研究の目的は,保育経験を一斉にスタートさせる幼稚園の3歳児を対象に,3年間の縦断的な観察研究を行い,保育における子どもの育ちを,特に絵本との関わりに着目して明らかにすることである.研究最終年度である本年度は,所属大学附属幼稚園の5歳児2クラス(3年及び2年保育児の混合クラス29名×2)の保育観察及び家庭での読み聞かせ調査を,以下の通り実施し,成果をまとめた. 1.研究経過 (1)保育場面の読み聞かせ (1)保育観察:05年4月〜06年3月の期間中,登園時から降園時までの観察を計25回行った.保育全般の流れをフィールドノートに記載すると同時に,幼児が絵本とかかわる行動をビデオで撮影した. (2)保育者への面接:観察後,保育と幼児の様子,絵本環境の設定意図,読み聞かせの意図などについて尋ねた.学期末には,観察結果を確認してもらい,意見を交換し,最終結果をまとめる検討を行った. (2)家庭での読み聞かせ (1)アンケート:家庭での読み聞かせ経験と幼稚園在園期間を通しての絵本経験の変化に関するアンケートを06年3月に実施した.38名(回収率65.5%)から回答が得られ,分析を行った. (2)訪問観察:昨年度の協力家庭に対して,06年1月〜3月に訪問観察を行った. 2.主要結果 上記の研究の結果,3年間の研究実施期間を通して,主に以下の3点が明らかになった.第1に,園での絵本体験は,幼稚園の在園期間を通して,家庭での絵本体験に影響を及ぼした.まず,園での絵本体験は,家庭で絵本に接する機会の少ない幼児にその機会を提供するものであった.また,園での絵本との出会いは,幼児全般に対して,家庭で幼児がふれあう絵本の種類の幅を広げ,絵本に対する好意度を増大させるものであった.第2に,家庭での幼児の絵本体験は,母親の読書行動と関連していた.しかし園での絵本体験には,母親の影響は見られず,保育者の環境構成,及びはたらきかけの重要性が明らかになった.第3に,園での絵本とのかかわりは,加齢に伴い,「本」としての機能を生かしたかかわり方(例えば,図鑑を調べる)が増えた。このように本研究は,3年間の保育における幼児と絵本のかかわりの発達的変化を具体的に描き出した.
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