Research Abstract |
本研究の目的は,情動と記憶の関係性について,身体反応を測定指標に加えて分析することである.通常,情動や認知の処理をする際には,発汗や心拍の変化などの身体生理反応が伴う.このような身体生理反応を指標に加えることで,これまでに明らかにされてこなかった,情動と記憶のメカニズムをさらに深く理解することができる.本年度は,その第一段階として,健常者を対象とした実験を実施した.用いた課題は,ギャンブリング課題である.この課題では,4つのトランプの山を用意し,被験者に好きな山から1枚ずつカードを引かせる.それに応じて,基本的に報酬を与えるが,山によっては罰も与える.被験者には,最終的に報酬を多くし,罰を少なくするように伝え,ルールについては一切知らせない.実際,報酬や罰の程度は,山に依存しているが,被験者がこのことに気づけば,一般に安全な山からカードを引くという方略をとれるようになる.この課題実施中に,身体発汗を皮膚電気反応測定装置(SCR)によって検出した.その結果,先行研究と同様に,被験者がルールに顕在的に気づく前から,危険な山からカードを引く際には強いSCRの反応が現れており,危険な山に対する無意識的な判断が身体反応で検出できることが示された.さらに,詳細な分析の結果,これらの反応は心拍などの他の生理指標とも連動していることが示された.課題のルールや,山からのカードの引き方についての記憶を頻繁に尋ねた結果,記憶の成績とは特に深い関係にはないことが示され,情動の生起が記憶に先行していることが示された.これらの結果は,情動と記憶のメカニズムを明らかにする上で,重要な示唆を与えるものであると考えられる.
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