Research Abstract |
本研究は,大正自由教育期に様々に展開された初等教育段階での公民教育実践の試みを,具体的な史料(資料)の発掘と分析にもとづいて,授業レベルで考察しようとするものである。今年度は,主に,修身科での改革の延長線上に出現した「修身教育の公民教育化」に焦点をあてて,授業レベルでの検討を進めた。その結果,当時において「修身教育の公民教育化」の研究と実践を,実践の立場から進めていた広島高等師範附属小学校(広島高師附小)と奈良女子高等師範附属小学校(奈良女高師附小)では,そのあり方が全く異なることが明らかとなった。 広島高師附小での公民教育化とは,従来の修身教育の目的を更に強化することであり,その手だては,従来の修身授業のように高いところから国定教科書内容を教え込むのではなく,子どもたちの目線で追究できるような内容の取り扱いを図ることにあった。しかし,そこで追究される内容は,国定教科書内容に織り込まれた内実を,更に踏み込むものとなっていた。 一方,奈良女高師附小での公民教育化には,従来の修身教育の目的だけに縛れず,子どもたちを現実の公共生活へと開放させようとする方向性が認められる。授業レベルにおいては,修身教科書の内容を参考とはするものの,基本的には,子どもたちの生活題材を授業の題材として取り上げ,子どもたちや教師による質疑や議論を通して,現実の公共生活の反省を行い,新たなる実践「意志」の形成が目指されていた。そして,形成が目指された子どもたち個々人の「意志」は,何者かにまとめられ,整理されることはなく,子どもたち自らが反省整理し,自覚に到達することが保障されたのである。また,当校で作成された公民教育指導計画案は,当時の時代状況のため,従来の修身教育の目的にかかわる内容も織り込まれてはいるが,子どもたちの実践「意志」が保障されるような内容となる政治・経済・社会の三方面の実際生活にかかわる内容も,意識的に配列されたことは,従来の修身科とは異なる性質の公民教育構想を提示したものとして,その意義を評価できる。 今年度は,平成15年10月26日に開催された全国社会科教育学会第52回全国研究大会(鳴門教育大学学校教育学部)において,上記のような分析結果の一部を「大正自由教育期における社会系教科再編の模索-初等教育段階の場合-」との主題で発表を行った。
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