2003 Fiscal Year Annual Research Report
ゲーム理論の統計力学による定式化と経済物理への展開
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15740229
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
井上 純一 北海道大学, 大学院・工学研究科, 助教授 (30311658)
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Keywords | 統計力学 / ゲーム理論 / 動的母関数の方法 / 動的平均場理論 / マイノリティ・ゲーム / エージェント / 市場履歴 / ボラティリティ |
Research Abstract |
今年度は数あるゲームの中でも,近年多くの研究者によって異なる角度から調べられてきている「マイノリティ・ゲーム」について,そのダイナミックスを動的母関数の方法(動的平均場理論)により調べた.このゲームはN人のエージェントがルックアップテーブル(戦略行列)に基づいた戦略により「買い」「売り」を決定し,少数派が利益を得るというゲームである.従来の研究ではこの繰り返しゲームに関し,各エージェントはその「市場履歴」を考慮せず,自らの意思決定をするか,あるいは,履歴を考慮したとしても,そのゲーム系の市場における「利得の揺らぎ」であるボラティリティの評価には,計算機による数値シミュレーションが主に用いられてきた. そこで我々は,市場の履歴が[戦略行列]と[(過去から現在にわたるまでのエージェントの履歴をあらわすベクトル)+(ランダム情報)]との間の横で与えられる場合につき,不規則系でのダイナミックスについての統計力学的解析手法である動的母関数の方法を用いて,システムの動的振る舞いの解析を試みた. この形での履歴は初めに英・オックスフォード大学のグループ[A.Gavagna et al.Pysical Review Letters 83,pp.4429-4432(1999)]によって導入され,彼らは計算機による数値実験を行い,ボラティリティの戦略数依存性は,どの程度まで過去に遡って履歴を考慮するか,に定性的には依らず、ある臨界戦略数αcで最小値をとり,αc以下では初期条件の選び方に強く依存するという現象は変わらないという結論を得た.我々の研究の焦点は彼らの数値実験による結論を解析的に確認することにある. しかし,当初我々が考えていたほど問題は(技術的に)易しくなく,現時点では残念ながらシングルエージェント方程式の導出,及び上述の焦点について最終的な結論を得るに至っていない.しかし,この研究過程で今後の研究を進める上で有益ないくつかの知見を得ることができた.主なものは 過去から現在にわたるランダムな情報と戦略行列との積を用いて各エージェントが状態更新を行う場合,ランダムな情報を状態更新式に取り込む際の関数形の偶奇により,系のマクロ量である「各エージェントの入札値の総和」が熱力学極限でwell-definedになるための更新ステップ1のシステムサイズNについてのスケーリングは異なり,偶関数の場合には,1=0(1)であり,奇関数の場合には1=0(N)である. という事実である.また,母関数の方法による解析をさらに進めるためには,ランダム行列の固有値分布の詳細な解析が必要となり,来年度に向けての課題となった.
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Research Products
(1 results)