Research Abstract |
本研究課題の2年目である今年度は昨年度から引き続き,市場履歴のあるマイノリティ・ゲームの動的側面に関する統計力学的な性能評価を行った.まず,問題の定式化として市場の履歴(記憶)がルックアップ・テーブル(戦略行列)で与えられ,その情報を用いて各トレーダが状態更新する場合(以後ルックアップ・テーブルケース),及び,過去から現在にわたる各トレーダの取りうる判断(「売り」「買い」)の総和をマクロな変数とした場合,過去Mステップにわたるこのマクロ変数をベクトルに見立てたものと,ルックアップ・テーブルの成分との内積を用いて各エージェントが状態更新する場合(以後,内積ケース)の2通りのシナリオに関して調べた.今年度はさらに,これらをルックアップ・テーブルの各成分が完全にランダムに選ばれる場合(擬似記憶)と,各とレーダの判断に依存する場合(真記憶)の2通りに場合分けし,それぞれ計4通りに対して母関数の経路積分表示による方法により,トレーダ数が無限大の熱力学極限においてシングル・トレーダ方程式を導出した. ここまでは定式化及びそれの形式的な解を書き下しただけであるから実際の物理現象に関してはこのシングル・トレーダ方程式を具体的に調べない限りわからない.しかし,悩ましいことに,この方程式はランダム行列のべき乗を被積分関数として含むような複雑なカーネル(積分核)を2つ含み,十分に時間が経過した後の平衡状態を調べるときでさえも,このランダム行列を含む部分の処理が不可欠であり,解析は非常に困難となった.この部分の難しさがこの課題の進捗を遅らせていた最も根本的な原因と言ってよい. そこで本年度は問題を異なる視点から見直した.つまり,トレーダの動きは時間-戦略空間の中である「経路」を選択すことになるのだが,ここではそれに着目し,無数にある時空間内の経路(履歴)のうち,それぞれの経路をとる確率(重み),つまり,トレーダの履歴の分布関数に着目し,これを解析的に導出し,上記の複雑なカーネルをこの履歴に関する分布関数のモーメントで展開して切り抜ける方法を考案した。この方法はある種の近似ではあるが,最も簡単なルックアップテーブル-偽記憶の場合に対して解析結果とシミュレーションを比較してみた結果,良好に一致を見せることがわかった.解析上の困難がこの方法である程度切り抜けられることがわかったので,現在では他の3通りのケース(1)ルックアップ・テーブル-真記憶(2)内積-偽記憶(3)内積-真記憶の場合につき,解析及びシミュレーションを継続実施中であり,結果を最終年度に様々な形で公表していく予定である.
|