Research Abstract |
液体は温度が下がるにつれてエントロピーが小さくなり,分子配置構造は次第に秩序化していくが,さらに温度を下げていくと,分子配置が変化する運動も次第に遅くなり,ついには分子配置がある程度の無秩序性を残したままに凍結するガラス転移を経て固体となる。しかし,大部分の分子運動が凍結したはずのガラス転移温度(T_<gα>)以下でも結晶化が進行することを見出した。 本研究では,冷却・昇温速度,試料保持温度と保持時間,等を厳密に制御しながら,ガラス転移温度(T_<gα>)以下での結晶核の生成と消滅現象を確認し,その解明を試みた。 分子内水酸基の数を系統的に変えたベンゾフェノン誘導体について,示差走査熱測定により,ガラス転移温度以下での結晶核の生成と消滅の過程を追跡した。2-ヒドロキシベンゾフェノンでは本実験の温度範囲で結晶核生成はみられなかった。ベンゾフェノンでは常に結晶化した。この場合,T_<gα>以上ですでに結晶核が生成している可能性も否定できない。水酸基を2つもつ2,2'-ジヒドロキシベンゾフェノン(T_<gα>=239K)では,T_<gα>以下での結晶核の生成と消滅現象が観測された。173Kでアニールした場合,結晶核は急冷した直後の5min程度に生成し始め,100min程度経過すると消滅し,さらに長時間経過すると再び結晶核が生成されていく。 2,2'-ジヒドロキシベンゾフェノンについて誘電緩和測定を行ったところ,T_<gα>よりも低い温度において分子再配置の緩和(β緩和過程)が観測され,T_<gβ>=78Kであった。また,T_<gα>以下で核生成主導結晶成長過程が進行することが見いだされた。 過冷却液体ガラスは,種々の秩序分子配置を持つクラスターの凝集体としての不均一構造を持ち,T_<gα>以下でもβ過程として再配置する分子が存在し,このβ過程を通してT_<gα>以下でも結晶核が生成するものと考えられる。また,極端に非平衡な過冷却液体(超急冷の条件下)においては,構造秩序化の初期段階では各領域において最初に形成された結晶胚を含む秩序構想クラスターが成長し,その後β過程を通して比較的安定な液体構造クラスターに収束する傾向を持つと解釈される。
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