Research Abstract |
複合酸化物材料の中でも強誘電体は,外部電界により容易に反転可能な自発分極を有するため,次世代不揮発性メモリ材料として応用が期待されている.しかし,一般に結晶化温度が高いという問題があり,広く応用するためには低温結晶化技術の開発が必要とされる.本研究では,触媒作用が期待されるシリケート材料を用い,強誘電体材料の低温結晶化を実現するとともに,そのメカニズムの解明を目指している. 一般的な半導体であるシリコン基板上への強誘電体材料の形成では,結晶化処理過程において基板からのシリコン元素拡散が起こるため,シリケート添加効果を明確にすることが難しい.そこで,白金コートシリコン基板の形成を行った.シリコン基板上での白金薄膜は,比較的低温の300℃程度で再結晶化を起こすため,強誘電体薄膜の結晶化過程で不安定となる.本研究において,拡散バリア層,接着層などの最適化を行うことにより,白金薄膜に引張り応力を作用させることで,熱的安定性が改善されることを示した.白金電極の熱的安定性の向上は,強誘電体薄膜の応用に関するひとつの懸案事項であるため,本成果は有益な指針を与えたものと考える. 他方,触媒材料としてシリコン,強誘電体材料としてチタン酸ビスマスを用い,そのシリコン添加効果について上記の安定化白金基板上において検討を行った.その結果,シリコン元素添加により結晶化温度の低減,ならびに配向性の向上が認められた.また,表面平坦性の向上と絶縁特性の改善が併せて確認されている.しかし,結晶格子定数の評価からはシリコン元素は殆ど結晶格子には取り込まれていないものと考えられる.また試料の構造上,蒸気圧の高いビスマス抜けによる結晶欠陥が原因となり,絶縁性ならびに強誘電特性が劣化する.シリコンならびにビスマス過剰添加量を最適化することにより,強誘電特性が発現することから,ビスマス欠陥が分極反転を妨げる働きをしているものと考えられる. 以上のことより,強誘電体薄膜の合成において,触媒添加は結晶化温度の低減に有効であることが示されたが,元素置換をするのではなく,シリケートあるいは金属酸化物として結晶粒界に析出しているものと考えられる.そのために強誘電相と常誘電相が混在し,印加電界が強誘電相に作用しなくなるため,添加量には最適値が存在するものと結論した.
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