2003 Fiscal Year Annual Research Report
昆虫の性フェロモンカスケードの分子メカニズムに関する研究
Project/Area Number |
15780043
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
大西 敦 独立行政法人理化学研究所, 分子昆虫学研究室, 基礎科学特別研究員 (50342762)
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Keywords | β-glucosyl-O-tyrosine / ACBP / sex pheromone / Bombyx mori |
Research Abstract |
アシル-CoA結合タンパク質(ACBP)は、長鎖脂肪酸アシル-CoAの保護、輸送に関与する低分子タンパク質で、生物種間で広く保存されている。これまでに、我々は、カイコガフェロモン腺からACBP(pgACBP)をクローニングしている。その遺伝子はフェロモン腺内で特異的に発現し、羽化1日前の蛹ではその転写量が急激に増加する。またフェロモン腺には、油滴状顆粒が数多く存在し、その中には性フェロモン前駆体となるトリアシルグリセロールが豊富に含まれている。以上のことから、pgACBPは、カイコガ性フェロモン(bombykol)生合成に深く関与していると考えられる。本研究では、bombykol生合成に重要な役割を果たすpgACBPの転写活性化因子の精製、解析を行った。 これまでに、pgACBP転写活性化因子は、羽化1日前の蛹の血清中に多く存在することが分かっている。血清サンプルを、amide-80カラム、ODSカラムを用いたHPLCで分離することにより、pgACBPの転写を誘導するピークを得た。MS、NMRによる構造解析の結果、このピークはβ-glucosyl-O-tyrosineであることが分かった。昆虫の体液中にはβ-glucosyl-O-tyrosineが存在することはすでに報告されているが、その直接的な機能を示すのはこれが初めてである。 β-glucosyl-O-tyrosineは、pgACBPの転写を特異的に誘導し、他のフェロモン腺特異的遺伝子(pgFAR、desaturase)の転写は誘導しない。また、その血中濃度は、羽化4日前から増加し始め、羽化直前まで高い濃度を維持し、pgACBPの転写を誘導する。さらにIn vitroの実験から、β-glucosyl-O-tyrosineは、直接フェロモン腺内に入り込み、pgACBPの転写量を増加させることが示唆された。
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