Research Abstract |
線虫捕捉菌(Monacrosporium megalosporum)は,線虫体内の内容物を栄養として摂取するために,線虫の表面のコラーゲンを分解するためのセリンプロテアーゼを産生していることが明らかにされている.このことから,線虫捕捉菌の線虫への病原性のメカニズムを分子レベルで解析するため,セリンプロテアーゼ遺伝子の塩基配列の決定および発現解析を試みた.PCR法で増幅したセリンプロテアーゼ遺伝子(spr1)は,開始コドンから終止コドンまでが,1407bpあり,75bpのイントロンでエクソンが2つに分断されていた.予想されるSpr1の前駆体タンパク質の分子量は,48.19kDaであった.また,アミノ配列中には,セリンプロテアーゼの活性部位に保存されている,アスパラギン酸残基,ヒスチジン残基,セリン残基が存在していた.上流の非翻訳領域には,転写因子である,AreAやCreAやPacCの結合部位のコンセンサス配列がみとめられた.そこで,spr1の発現がどのような環境因子により制御されているかを調べるために,炭素源の濃度,窒素源の濃度,pHを変えた培地で,それぞれ培養した菌糸体からRNAを抽出し,RT-PCRを行った.その結果,spr1の転写は,炭素源や窒素源による影響は全く受けなかった.ところがpHに関しては,中性から弱アルカリ性でspr1の転写産物が確認できたのに対し,酸性側では発現の抑制がみられ,pH5以下では,全く発現していなかった.このことから,spr1の発現は,AreAやCreAではなく,PacCによる制御を受けていることが示唆された.以上のことから,線虫捕捉菌の線虫に対する病原性は,pHの影響を受けることが明らかになった.従って,近年の松枯れの進行は,酸性雨による線虫の天敵微生物である線虫捕捉菌の活力の低下も一因であることが強く示唆された.
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