Research Abstract |
代表者の所属する研究グループは,グリア細胞の機能解明を通して脳機能を追究する目的で,脳内の主要グリア細胞であるアストロサイトの病態的意義に関して一連の研究を行ってきた.その過程において,インビトロ虚血-再灌流モデルの一つであるCa^<2+>再灌流において,Na^+-Ca^<2+>交換系を介したCa^<2+>過流入より遅発性グリア細胞死が発現することを見いだした(Eur.J.Neurosci.,1996).また,本障害のシグナルカスケードについて,活性酸素産生ならびにカスパーゼ3の活性化が関与するアポトーシスにより進行することを明らかとし(Eur.J.Neurosci.,1999),制御機構について,cGMP-Gキナーゼ系の活性化がミトコンドリアのPTP制御を介して抗アポトーシス作用を発現することを明らかとした(Br.J.Pharmacol.,2001 ; J.Biol.Chem.,2001).さらに,熱ショック蛋白がアポトーシスを抑制すること(Brain Res.,2002),カテプシンDが促進シグナルとして,一方,カテプシンBが抑制シグナルとして機能していることを見いだした(Neurochem,Int.,2003).平成15年度は,神経細胞死発現過程におけるアストロサイトの役割を追求する目的で,アミロイドβ(Aβ)神経毒性モデルを用いて解析を行い,アストロサイトが液性因子を介して神経細胞をサポートすることを明らかとし,さらに,脳機能改善薬T-588が本作用の維持・改善により神経細胞保護作用を発現することを明らかとした(Neurochem.Res.,2004).また平成16年度は,神経脱落疾患におけるミトコンドリアシグナルならびにアポトーシスの役割について追求する目的で,まず,神経細胞におけるAβ毒性の作用機序を検討し,Aβ結合アルコール脱水素酵素および変異型アミロイド前駆蛋白(mAPP)を導入したマウス由来の神経細胞において,ミトコンドリアの機能低下と脆弱性の増大を明らかとした.このミトコンドリア機能の低下は呼吸鎖複合体IVの活性低下と密接に関連しており,ATP産生の低下,活性酸素産生の増加,ミトコンドリアからのシトクロムc遊離およびカスパーゼ3活性増加といった一連のアポトーシスシグナルの活性化をもたらすことを見いだした.さらに,ABADとAβの相互作用を阻害する蛋白質がこれらの障害を抑制することを示した.平成17年度は,ABADによる神経細胞死増強作用に対するグリア細胞の役割ならびにABAD発現に伴うグリア細胞のミトコンドリア機能変化についての検討を計画したが,遺伝子改変マウス個々より培養グリア細胞を調製することが非常に困難であり,本計画については期間内に完了することができなかった.一方,前年度より継続して神経細胞におけるAβ毒性発現機序についての解析を実施し,ミトコンドリア内でのABADとAβの相互作用がアポトーシス発現に重要であることをABADデコイペプチドを用いて示すとともに,その発現機序にPTP形成が関与することを薬理学的に明らかとした.
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