2003 Fiscal Year Annual Research Report
胃の発癌や胃粘膜萎縮に関連するヘリコバクターピロリ菌遺伝子の同定と解析
Project/Area Number |
15790344
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Research Institution | 福井医科大学 |
Principal Investigator |
伊藤 義幸 福井大学, 医学部, 助手 (60313748)
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Keywords | ヘリコバクターピロリ菌 / DNAサブトラクション法 / 遺伝子の多様性 |
Research Abstract |
平成15年度は,サブトラクション法を用いてヘリコバクターピロリ菌の胃粘膜萎縮および消化性潰瘍に関連する遺伝子の同定を試みた.日本株を用いて胃癌株と十二指腸潰瘍株の間でサブトラクション法を行い比較したが,現時点で胃癌株もしくは潰瘍株に特異的な遺伝子(遺伝子断片)は同定できていない.そこで,視点を変えてワシントン大学との共同研究により,胃癌の頻度の高い日本株と頻度の少ないスペイン株を比較した.その結果,日本の株に特異的な307塩基対からなる遺伝子断片を同定した.この遺伝子断片は,既存のヘリコバクターピロリ遺伝子の5'末端近傍に相当するが,欧米株ではその遺伝子は蛋白をコードしていない偽遺伝子である.日本株では約80%の菌株がこの遺伝子断片を有しているが,相当する遺伝子は242アミノ酸残基からなる蛋白に翻訳される.興味深いことにこの蛋白は,日本株に特異的な5'末端領域で3回膜貫通型の膜蛋白と想定され,現時点で他に高い相同性を有する蛋白のない,新規の細菌蛋白である.何らかのシグナル伝達に関与する可能性があるが,今後の機能解析が待たれる.なお,この日本に特異的な遺伝子断片はスペインをはじめ欧米株では認められないが,東アジア地域では高頻度に認められる.欧米と東アジア地域の胃癌の発症頻度の差に関与する可能性もある. また,ヘリコバクターピロリ菌にはプラスミドを有する菌株が存在するが,他の病原菌のようにプラスミドが病原性に関与しているという報告はない.そこで,胃癌株と慢性胃炎株でプラスミドを有する株で比較したところ,胃癌に特異的な遺伝子断片はなかったが,これまでに報告のないプラスミド(サイズは未知)を同定し,そのプラスミド上に遺伝子断片の転移に関連する1980塩基対からなるmobA遺伝子のhomologが存在し,この遺伝子がこの菌の多様性に関与する可能性を示唆した.
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