2016 Fiscal Year Annual Research Report
高選択的なバイオケミカルス/バイオ燃料生産を目指したリグニンの熱分解分子機構解明
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15F15101
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
坂 志朗 京都大学, エネルギー科学研究科, 教授 (50205697)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
MOHAMMED YUSSUF MOHD ASMADI 京都大学, エネルギー科学研究科, 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2015-10-09 – 2018-03-31
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Keywords | バイオマス / 熱分解 / リグニン / 分子機構 / 相互作用 / 反応制御 / ケミカルス |
Outline of Annual Research Achievements |
木質バイオマスの細胞壁は、結晶性のセルロースミクロフィブリルがリグニンとヘミセルロースからなる非結晶性のマトリックスにより取囲まれた複層構造を持つ。昨年度(平成27年度)の研究では、熱重量分析(TGA)を用いた検討により、マトリックスの熱分解がリグニンの熱分解により支配されており、その挙動が針葉樹(スギ)と広葉樹(ブナ)で異なることが示唆された。本年度(平成28年度)は、これらの木粉からリグニンを除去することで得られるホロセルロースの熱分解特性を比較検討した結果、リグニンを除去することでセルロースとヘミセルロースの熱分解に対する反応性が向上することが明らかになった。また、ホロセルロースに単離リグニンを添加した試料、ボールミル処理した木粉などとの比較から、リグニンの化学的な影響よりもリグニン分子鎖が開裂することでマトリックスの充填状態が変化することで、ヘミセルロースの反応性が向上し、さらにその影響でセルロースの反応性も向上したのではないかと推測された。さらに、針葉樹5樹種と広葉樹5樹種中のヘミセルロースに結合したウロン酸基あるいはウロン酸塩とアセチル基(熱分解することで酢酸を生成)に着目した検討により、これらの酸、塩基触媒作用が木材の熱分解に影響を及ぼしていることを示唆する結果が得られ、広葉樹でこれらの含有量が高いことが広葉樹と針葉樹の熱分解特性が異なる一つの理由であると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度(平成27年度)の研究により、リグニン-ヘミセルロースマトリックスの熱分解挙動が針葉樹と広葉樹で異なり、その相違がリグニンの熱分解により支配されている可能性があること示唆された。本年度(平成28年度)の研究では、リグニンの低分子化が一部進行することで、ヘミセルロースの熱分解が促進され、またヘミセルロースの熱分解が進行することで生成する酢酸がリグニンの熱分解に影響するといった相互作用を伴いながら木材中で熱分解が進行していることが示唆された。これらの成果は、木材中でのリグニンの熱分解機構を解明し、その制御を考える上で重要な示唆を与える。このように、木材中でのリグニンの熱分解機構解明は着実に進展しており、本研究課題は順調に進捗しているものと判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の研究で、ヘミセルロースの分解生成物(酢酸など)がリグニンの熱分解に影響を及ぼしている可能性が示唆された。本結果は、リグニン単独の熱分解機構のみでは木材中のリグニンの熱分解分子機構を理解することができないことを示す。そこで平成29年度の研究では、木材が熱分解する過程でリグニン、ヘミセルロース、セルロースがどのように分解しているのかをTGAと残渣の解析から明らかにすることを目指す。特に、ヘミセルロース中のアセチル基がどの段階で加水分解され酢酸に変化しているのか、これがリグニン及びセルロースの熱分解にどのように影響しているのかに着目する。なお、アセチル基は広葉樹には針葉樹の2倍程度含まれており、その結合多糖が広葉樹でキシラン、針葉樹でグルコマンナンと異なり、これらのマトリックス中での存在状態が異なることも報告されている。したがって、このような化学構造の相違及びトポ化学的な特徴にも着目する。
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Research Products
(4 results)