2016 Fiscal Year Annual Research Report
Dynamics of writing traditions on the Silk Road: a case study of Tocharian and other languages
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15F15303
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
吉田 豊 京都大学, 文学研究科, 教授 (30191620)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
CHING CHAO-JUNG 京都大学, 文学研究科, 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2015-11-09 – 2018-03-31
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Keywords | トカラ語 / ガンダーラ語 / カローシュティー文字 / クチャ / シルクロード / ブラーフミー文字 / クシャーン朝 / ソグド語 |
Outline of Annual Research Achievements |
本来無文字社会であったシルクロード地域に文字文化が導入され,独自の言語が文字化されるプロセスや,その歴史的な背景を考察するのが本研究の目的である.特に,比較的に多くの資料が残されていながらその観点からの研究が十分なされていない,オアシス国家クチャ(古代の亀茲,中国新疆ウイグル自治区庫車)と周辺のオアシス国家を例にとり,中国(漢から唐),インド,およびイランからの影響のもと,クチャ土着の言語が(トカラ語Bとも呼ばれる)文字化していくプロセスを丹念にトレースすることである. 昨年度は,慶が2010年に博士論文提出後も進めてきたクチャ出土の,ブラーフミー文字表記トカラ語で書かれた寺院経済文献の研究以外に,洞窟寺院の壁面に刻まれた銘文の解読や分析を行ったうえで,漢文の歴史資料とつきあわせることにより,シルクロードの一大仏教オアシス国家クチャの王統や歴史,農業・畜産・冶金技術などを可能な限り克明に分析し,いくつかの論文として発表するとともに,それを一冊の研究書としてまとめ,北京大学出版会から刊行した.別に,日本の龍谷大学が保管するトカラ語の文書を解読研究しその成果を発表した. グプタ期以降にインドからブラーフミー文字が導入される以前に,おそらく2-3世紀のクシャーン朝のシルクロード支配を背景として,西北インドのガンダーラからもたらされた,カローシュティー文字表記のガンダーラ語(中期インド語の方言)が,シルクロードの各オアシス国家で使われていたことが明らかにされつつあるが,慶はそのうちクチャにおけるガンダーラ語使用の実態研究において,現在世界では第一人者になっており,日本の東京国立博物館をはじめとして,ベルリンやサンクトペテルブルグに保管されているクチャ出土のカローシュティー文字木簡を調査して,その解読の成果を国際学会において口頭発表したほか,いくつかの論文として公刊した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
中央アジアにおいては,周辺の大文化圏からの影響を受けて土着の言語が文字化していった.そのプロセスや類型を考察すること.とりわけ慶が専門にしているオアシス国家クチャにおいて,記録用の言語やそれを表記する文字がどのように導入され,その後どう変化したかを考えることが最大の関心であった.またそれを吉田が研究しているイラン語圏の事情と比較・対照してその相違を明らかにすることも重要なテーマであった.イラン語圏では,アラム文字表記のアラム語が導入されが,後に言語は忘れられ,表音文字であるアラム文字を使ってイラン語が表記されるようになったことが知られていた.龍谷大学や東京国立博物館が所蔵す大谷探検隊将来資料についての慶の研究により,クチャでは当初,クシャーン朝下のガンダーラで使われていた文字(カローシュティー文字)で表記された中期インド語(ガンダーラ語)が使われていたこと,さらにその文字はクチャにおいていくらか変容したことが明らかにされつつある.これは当初の予想を超える大きな成果であった.これ以外に日本だけでなくドイツ,ロシアの資料の調査も同時進行的に行っており,きわめて順調に調査は進んでいる. 漢文資料もこなせる慶はこの分野でも世界の学界に貢献し始めている.今年度の秋の学会シーズンにおいて,紀元後5世紀頃の中央アジアの一大勢力であった謎の民族エフタルに関してハンガリーで行われる学会をはじめとして,いくつかの国際学会でその成果の一端は発表するように慶は依頼され,その参加に向けて現在学会で発表する論文を準備中である.
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Strategy for Future Research Activity |
慶は当初,今年8月の19日に修了する21ヶ月間の研究期間を希望していたが,現在それをさらに3ヶ月延長し,24ヶ月とする希望を出していて,それが実現することを前提にしてこの項目を記載する. 今年度は,最終年度としてこれまでの研究のまとめを行う方針である.具体的には夏の終わりから秋にかけて開催される国際学会および日本国内の学会や研究会での研究成果発表の準備と,その内容を論文にまとめる作業が,今後の一つの大きな課題でありまた専念する作業でもある. 学会における発表,およびそれと前後して,国の内外の研究者との連絡と情報交換を密にしつつ,研究成果を共有する事を通じて,論文内容の精度と完成度を高めると共に,新しい情報や新発見の資料の収集につとめるつもりである.とりわけ海外での学会参加の機会などを効果的に利用しながら,ドイツやフランス,中国などの海外の研究機関が所蔵する関連資料の調査や,かつて調査した文献の再調査も行わなければならない.とりわけ従来手つかずであったパリの資料の研究は世界的に見てきわめて重要で,そのために応分の時間を割きたいと考えている.これは,慶の研究の次の段階に向けた資料収集として,その準備にもなるはずであると期待している.別に私(吉田)と共同でクチャの洞窟に見られるソグド語と漢文の銘文,およびその同じ洞窟にあるトカラ語銘文の研究も行いたいと考えている. 古代の文献の研究は歴史や考古学,思想史・美術史・文化史との関連も深く,当該分野の研究者との交流は相互に裨益することが大きい.今後は,言語や文献の研究に関する研究集会への参加に限らず,これまで以上に広い問題意識をもって研究を続けていく所存である.
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Research Products
(7 results)