2015 Fiscal Year Annual Research Report
時間分解インパルシブラマン分光法による超高速構造変化の観測
Project/Area Number |
15F15336
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
田原 太平 国立研究開発法人理化学研究所, 田原分子分光研究室, 主任研究員 (60217164)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
KUMAR PARDEEP 国立研究開発法人理化学研究所, 田原分子分光研究室, 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2015-11-09 – 2018-03-31
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Keywords | 超高速分光 / ダイナミクス / 光化学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、先端的な超高速分光法を用いて機能性複雑分子系の光反応初期過程を研究し、光応答を引き起こす分子機構を微視的観点から解明する。特に、(1) 置換基等の化学修飾による光化学的性質の制御に興味がもたれている銅錯体や光照射による化学結合生成が注目を集めている金錯体などの遷移金属錯体、(2) 高い変換効率に向けて精力的に研究されている薄膜太陽電池モデル系、などを対象にした研究を推し進める。フェムト秒時間分解吸収および蛍光分光を駆使して電子状態ダイナミクスを明らかにするとともに、フェムト秒時間分解インパルシブラマン分光を用いて核運動および振動構造変化を追跡する。これらの電子状態と分子構造に関する情報を突き合わせることにより、多次元の構造発展を伴った光励起分子の反応座標を可視化し、機能の発現につながる分子ダイナミクスの全貌を解明するとともに、新たな分子機能の創出へ向けた指針を得ることをめざす。 平成27年度は、ビスジイミン銅(I)錯体の光誘起構造ダイナミクスの研究に着手した。Kumar氏はインド工科大学カンプール校の博士課程の研究においてフェムト秒レーザーを取り扱っていたが研究テーマは熱レンズ分光に関するもので、フェムト秒領域の時間分解分光測定の経験はない。そこでまず、ビスジイミン銅(I)錯体をS2状態に光励起し、その後の励起状態ダイナミクスをフェムト秒時間分解吸収分光を用いて測定することによってフェムト秒時間分解測定の基本技術を習得した。さらに、電子励起状態のコヒーレントな核運動を直接測定するフェムト秒時間分解インパルシブラマン分光の技術を習得し、フェムト秒領域の励起状態のラマンスペクトルの時間変化の測定に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Kumar氏はフェムト秒領域の時間分解分光測定の経験が無かったが、ビスジイミン銅(I)錯体を対象にした実験を通して、フェムト秒時間分解吸収測定の基本技術を習得した。さらに、電子励起状態のコヒーレントな核運動を直接測定するフェムト秒時間分解インパルシブラマン分光の技術を習得し、フェムト秒領域の励起状態のラマンスペクトルの時間変化の測定に成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでにフェムト秒時間分解インパルシブラマン分光を用いてビスジイミン銅(I)錯体のフェムト秒領域の時間分解スペクトルを測定した。その際、励起状態の振動バンドの周波数と強度が低振動数で変調している可能性を示すデータが得られたが、現在の測定装置でその再現性を確認するために十分なS/Nを得ることが難しかった。そこで、今年度新たに製作するYb:KGWレーザーを光源とする測定システムを用いて、高いS/Nで再度測定を行い、この観測が正しいものかを確認する。この観測が本当であれば、これはビスジイミン銅(I)錯体が光励起後に大きく構造変化したのち、その影響で構造変化後も大振幅振動を行っていることを意味しており、大変興味深い。この実験に合わせて、取得した技術を活かして、ナノ粒子に吸着した分子や光受容タンパク質のコヒーレントな核波束振動を時間領域で観測する実験を行う。
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Research Products
(2 results)