2016 Fiscal Year Annual Research Report
Selective mating, reproductive isolation and genetic divergence in foraminifera: understanding the nature and origin of protist species
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15F15781
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
土屋 正史 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海洋生物多様性研究分野, 技術研究員 (00435835)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
WEINER AGNES 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海洋生物多様性研究分野, 外国人特別研究員
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Project Period (FY) |
2015-11-09 – 2018-03-31
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Keywords | 海洋原生生物 / 有孔虫 / 集団遺伝学 / 隠蔽種 / 分類学 / 分子系統学 / 生殖的隔離 / 分子生物地理 |
Outline of Annual Research Achievements |
有孔虫類は海洋に広く分布し,生物量が多く,種多様性の高い真核微生物群である。石灰質の殻を持つため,地球規模の炭素循環や化石記録を利用した古環境解析に重要な役割を果たす。しかし,その重要性にもかかわらず,有孔虫類の多様性や進化に関する多くの疑問が残されてる。 平成28年度は,日本沿岸から採取した有孔虫類の遺伝的・形態的多様性に関する研究を継続して行った。採取時には環境パラメータ(水温,塩分)を測定し,個体や集団の環境への応答様式を明らかにするための情報として利用した。さらに,種間の微細な形態的な違いを検出するために,走査型電子顕微鏡による観察を行った。観察を行った個体は1個体ずつ遺伝子を抽出し,核内小サブユニットリボソームRNA遺伝子及びそのスペーサー領域を有孔虫類の特異的プライマーで増幅した。有孔虫の個体内には複数のリボソームのコピーが存在したため,増幅した遺伝子領域をクローニングした後に塩基配列を決定した。さらに,得られた遺伝子配列をアライメントし,種間あるいは種内の変異を検出するだけでなく,各形態型に存在する遺伝的変異の規模を解析することで,形態学的データと塩基配列データを組み合わせて統合的な分類学的検討を行った。 有孔虫類の進化およびそれらの多様性がどのように創出されるかを理解するためには,有孔虫類の生殖様式に関する知見が必要である。この点に関して,平成28年度には相模湾から採取した有孔虫を材料に短期間の培養を試み,生殖周期を観察し,遊走子を個体内に持つ試料を単離することに成功した。これにより,個体ごとに産生される遊走子の数を推定するとともに,遊走子の細胞構造と遺伝的な関係を明らかにすることが可能となる。これらの情報は,海洋における有孔虫類のreproductionとそれが集団構造にどのように影響するかを理解することを目的としたモデル解析に利用する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在,房総半島,三浦半島および北海道から採取した個体の遺伝子増幅,クローニングを行い,塩基配列を決定した。平成28年度当初には,解析を予定していた種(Patellina corrugataおよびSpillillina vivipara)が日本沿岸ではきわめてまれにしか産出せず,集団の遺伝的解析を行う上では,十分な量を得ることができないことが判明した。そのため,本研究で用いる有孔虫種の選定をやり直すことから開始し,既往研究で交配集団が解明されているGlabratella属の有孔虫類(Planoglabratella opercularisなど)を利用し,遺伝的な解析を進めることにした。 Glabratella属の有孔虫類は,日本沿岸の岩礁地に豊富に存在し,その多様性と分布パターンを研究する良いモデルであるといえる。 当初計画された底生有孔虫における生殖様式の観察と,生殖可能な集団の関係を理解するための交配実験では,試料が長期間生存できず,実験室内では同調的に幼体個体を得ることがきわめて困難であることが判明したため,主に遺伝的な解析を進めた。遺伝的な解析では,遺伝的交流の有無を判別することが可能であると言われている手法を導入して,交配実験の代わりとして間接的に交配集団の関係を明らかにした。種間あるいは隠蔽種間の生殖的隔離を検出する間接的な方法の1つは,相補的な遺伝子配列の置換(CBC)を検出することである。そのために核内小サブユニットのスペーサー領域であるITS2の塩基配列の二次構造を利用した解析を行った。現在,昨年度に解析したDNA塩基配列をもとに,遺伝的集団の規模と遺伝的交流の有無に関する解析を進めている。その結果,広範囲の分類群において生殖的な隔離が起きていると考えられる集団間とCBCの置換がよく相関することが明らかになってきた。
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Strategy for Future Research Activity |
Glabratella属の底生有孔虫についての遺伝的および形態学的研究を終了し,その結果を分析し評価する予定である。解析では,分子系統樹の構築および分岐年代の推定を行うとともに,隠蔽種内や隠蔽種間の遺伝的多様性を評価する。また,殻形態の微細な形質に着目し,遺伝的な変異と形態的な変異をあわせた統合的な分類体系を確立し,Glabratella属の伝統的な分類体系を再検討する。 これまでのところ,有孔虫類に関する分子系統学的研究は,核のリボソーム遺伝子のみに基づいている。しかし,分子系統学的な研究は,より多くの遺伝子を含めることによってその信頼性を高めることができる。その手法の一つとして,有孔虫のミトコンドリア遺伝子の解析がある。これまでに有孔虫類のミトコンドリア遺伝子が解析された例はなく,本研究期間中に有孔虫のミトコンドリア遺伝子の抽出と増幅を試み,分子系統解析に用いることができるかどうかを検討する。さらに,ミトコンドリア遺伝子の中でも,集団遺伝学的解析に利用できる新たな遺伝子マーカーが見いだせるかどうかを検討する予定である。さらに,北太平洋から採取する予定の有孔虫類の遺伝的多様性を明らかにするとともに,北西太平洋深海底から採取した大型有孔虫(Xenophyophores)の記載を行う予定である。
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Research Products
(11 results)