Outline of Annual Research Achievements |
超高齢社会といわれる今日において要介護者の生活の質(QOL)を高めるためには, 日常生活空間において, ベッド-車椅子-トイレなどの移動が不可欠である. この際, 異なる2地点の移動(移乗)動作が必要となるが, 介護者・被介護者の双方に負担のかかる移乗介助はふさわしくない, そこで, 移乗を補助する器具や機器の開発が望まれている, 本研究では, 要介護者を座位の姿勢のまま移乗させる簡易座位移乗器具を開発し, その有効性を検討することを目的としている, 開発した移乗器具は, 事務椅子を改造し作成した. 背もたれ部分を被介護者の上半身を支える胸当として, 椅子の背に向かい合う格好で座る構造である. 座面部に円滑に乗り移るために, 付属のシートを排して受動回転するローラ型の座面を取り付けた. また, 胸当て部はロック式ガススプリングを用いて上下に昇降する構造で, 被介護者の上半身を持ち上げて着座位置から臀部を離床しローラ型の座面に乗り移らせる, この際, 介助者は被介護者の上半身を持ち上げる補助を行うか, 臀部をローラ型座面の方向に引き込むように操作する. この器具の操作力を現行よく用いられるスライディングボードと比較することにより有効性を検討する. 新規に購入したスライディングボードとひじ掛け跳ね上げ式の車椅子を用い移乗実験を行った, 腰に回した介護ベルトにロードセルをつなげ, AD変換器を介してPCに接続してデータを収集した. 車椅子の座面とほぼ同じ高さの座面からの移乗では, 椅子にまっすぐ立った姿勢で座っている体重600Nの被験者を109Nの力で移乗できた, 片麻痺の患者を模して健側の手で車椅子のひじ掛けにもたれた姿勢の被験者では93Nの力で移乗できた. また, 車椅子の座面よりも5cm高い座面からの移乗実験ではそれぞれの姿勢で95N/73Nの力で移乗できた, 開発した移乗器具を用いた場合, 胸当てに抱き着いた被介護者の臀部における座面反力はひじ掛けにもたれた時の350Nに比べ大幅に減少し, 150Nの座面反力であった, しかしながら, 腰を引き込むように力を加えた移乗実験では123Nの操作力が必要であった. 介護ベルトを脇に巻き付けて上半身を持ち上げるように力を加えた方法では165Nの操作力が必要であり, いずれもスラディングボードよりも大きな力が必要であることが分かった. ガススプリングには臀部離床前に伸びて抱き上げの補助を期待したが, ローラ型座面に臀部が乗り移った後に伸びておりスプリングの反力が足りないことが分かった, しかしながら, 現状の200Nの反力でも縮める操作が困難でありガス圧の増強にはさらなる検討が必要である.
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