2018 Fiscal Year Annual Research Report
社会脳を創発するソーシャル・インタラクション:二つの脳の融合に向けて
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15H01690
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
苧阪 直行 京都大学, 文学研究科, 名誉教授 (20113136)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
船橋 新太郎 京都大学, こころの未来研究センター, 名誉教授 (00145830) [Withdrawn]
蘆田 宏 京都大学, 文学研究科, 教授 (20293847)
村井 俊哉 京都大学, 医学研究科, 教授 (30335286)
苧阪 満里子 国立研究開発法人情報通信研究機構, 脳情報通信融合研究センター脳情報工学研究室, 主任研究員 (70144300)
坪見 博之 富山大学, 学術研究部人文科学系, 准教授 (70447986)
福山 秀直 京都大学, 充実した健康長寿社会を築く総合医療開発リーダー育成リーディング大学院, 特任教授 (90181297)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 同期行動 / 社会脳 / 社会性障害 / ハイパースキャニング / fNIRS / fMRI |
Outline of Annual Research Achievements |
研究課題は、社会脳の動作メカニズムを主として前頭葉・頭頂葉・側頭葉とそれらをつなぐネットワークの働きから解明し、また社会性の適応障害の原因究明と改善法の探求を進めることで、健全で豊かな社会脳の働きを生み出す仕組みを探求することを目標としている。 このため、特に複数人が協調して課題を達成する際の社会脳のダイナミックな相互作用を直接観察できる革新的な複数人同時計測法(ハイパースキャニング:hyperscanning)を導入し、「複数の脳がひとつの心」になる過程を機能的近赤外分光法(fNIRS)を中心に検討した。同時に、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)などの脳イメージング法によって統合失調症などの社会性疾患を社会脳ネットワークの機能不全から検討し、適応障害の予防や改善の方法を検討した。平成30~令和元年度には、複数名の実験参加者を対象としたfNIRSによるハイパースキャニングを、同期的行動を指標としてウェーブレット・コヒーレンス相関法で解析した結果、前頭葉皮質下部領域に他者との行動の同期をとる領域が認められた。他の参加者の判断や評価を受けて、自らの判断を行うような協調・競合課題を行う際の同期的活動や、その際の行動の変化を計測する課題を同様の相関法で詳細に分析中である。 また、社会性障害では統合失調症患者では灰白質体積の減少とともに文化差による影響があること、さらに東アジアにおいては、対人恐怖症と社会不安症などの患者が認知的共感の減少とかかわることがfMRIを用いた研究で示された。 こうした一連の融合的研究を通して、社会脳を創発する社会的同期行動の基礎となる脳内過程の解明の一部が明らかにされた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題が掲げる4つの目標の達成に向けて、十分な成果を上げることができた。目標1(ハイパースキャニングによる社会脳ネットワークの同期的活動の検討)については、例えば複数名の実験参加者が同時に一つの協調・競合課題に参加する際の脳活動をfNIRSによるハイパースキャニングによって計測し、同期的活動がどのように現れるのか詳細に分析を行っている。目標2(社会性障害の病態解明)については、fMRIにより、統合失調症患者の脳の灰白質体積の減少が育った文化の影響を受けること、また対人恐怖症と社会不安症患者が認知的共感において困難をもつことなどがfMRIを用いた病態解明の研究で示された。さらに、自己参照課題を用いることで社会的文脈における他者の顔認知が内側前頭前野などとかかわることも示唆された。目標3(社会性障害の回復法についての検討)についても、統合失調症患者が、視覚的注意の障害を受けるとバイオロジカルモーションなどの高次視覚処理に不具合が生じ、社会性認知の障害が生じる可能性が指摘され、機能回復の手掛かりとなった。これらの研究成果から、豊かな社会性を支える協調の複数脳統合ダイナミクスのモデル化(目標4)の達成に向けて本研究プロジェクトは順調に進んでいるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き本研究課題の中核的目標である目標1(ハイパースキャニングによる社会脳ネットワークの検討)を中心に、「なぜ人々は協力し合うのか」という視点から検討したい。これは、協力・協調し合うことで豊かな社会性を育む社会脳の働きが生まれるという仮説に基づいている。東日本大震災や2020年春の新型コロナへの防疫行動にも人々のsynchronizeした協力行動がレジリエンスに必須となった。レジリエンスは精神的復元力とも呼ばれ、持続的ストレスによって損耗した健全な社会性(心)の回復を指し、これは東日本大震災からの復興や新型コロナへの対応において原動力となった。 社会脳は自己と他者を共感で結び、協調的で豊かな社会性を生みだす。一方、社会脳の活動に不調が生じると、認知的共感の低減をもたらす。引きこもりやうつ状態も社会脳の不調がその一因となることも多いと考えられる。自他を結ぶ絆となる共感力の働きの脆弱化を防ぎ、その強化と回復を図るためのハイパースキャニングを用いた共感脳の仕組みの基礎的研究と、それを社会に生かす展開研究を考えている。豊かな社会性を支える協力・協調行動の複数脳における統合のダイナミクスをモデル化と評価法についても引き続き検討を進め、健全な社会脳の仕組みと再生プロセスを明らかにすることを目指したい。
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Research Products
(21 results)