2017 Fiscal Year Annual Research Report
人が生育する限界的環境に於ける発育発達(生活技術の発達を含む)と成熟の総合的研究
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15H01763
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Research Institution | Otsuma Women's University |
Principal Investigator |
大澤 清二 大妻女子大学, 人間生活文化研究所, 所長 (50114046)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中西 純 国際武道大学, 体育学部, 教授 (30255179)
二文字屋 脩 京都文教大学, 公私立大学の部局等, 教務補佐 (50760857)
下田 敦子 大妻女子大学, 人間生活文化研究所, 講師 (60322434)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 狩猟採集民 / 身体発育 / 身体発達 / 生活技術 / 限界的環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
人の発育発達過程の知識は従来欧米と東アジアを中心とする地域、民族に関して蓄積されてきたがこれら以外の人の発育発達の諸相については全く知識の蓄積が無かった。この研究では人の身体発育発達の諸相を人類が狩猟採集時代から現代までに辿ってきた社会の発展段階に添って探求してきた。この手掛りとしてGoldschmidtが示した人類発展史モデル「Man's Wayモデル」を作業的な仮説として取り上げ、これに対応させて、人の身体発育発達を解明している。その結果、アンダマン海の漂海民モーケン、タイの森の民ムラブリ、ヒマラヤの高地民ボーティア、シェルパ、ミャンマー最深部の伝統社会に生きるパダウン(カヤン)、上座仏教の僧院に出家した少年僧を継続的に現地調査しつつあり、実査データによって発育発達と生育環境との関係についてこれまでに無い規模でデータ蓄積が進んできた。①生育環境・ライフスタイル(食事、衣服、育児の慣習、通過儀礼、人体変工等)②形態発育(身長、体重、皮下脂肪厚など人類学的計測項目とそれらによる指数、③機能発達項目:FMS(ファインモータースキル)、GMS(グロスモータースキル)42項目(例、鉛筆削り、木登り、閉眼片脚立ち等)、SFL(スキルズ・フォア・ライフ生活技術)28項目(衣服着脱、調理、火おこし、操船等)④その他走、跳、投能力、筋力、肺機能、視力、聴力、泳力、書字力等民族の特徴に応じた体力・基礎運動能力等 ⑤性成熟項目(初経、精通年齢等5項目)これに関しては一部調査不可が含まれる。いずれにしても、この種の調査としては項目数、測定対象者の数ともに世界最大級のデータセットを蓄積しつつある。またこれまでに収集した3~18歳の発育発達データについて項目毎にそれらの発達状況を集計し、順次、データ解析と解釈を行い、日本発育発達学会などへの報告等論文として逐次公表しており今後も随時公表予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
この研究では限界的な環境下で生育しつつある人々の発育発達の諸相をこれまで実態が全く未知であった民族を対象に、困難な調査環境下で実査を行ってきている。 A.アンダマン海を漂海するモーケン、B.20年前に移動・狩猟採集生活から定住生活に移行したタイのムラブリ、C.17世紀にチベットから移住した牧畜・農耕民ボーティア、D. ヒマラヤ高地のシェルパ、E.外部世界から離れたミャンマーのパダウン(カヤン)、F.上座仏教の少年僧。本年度はC、D、E、Fについてデータ収集、データ入力作業を行った。 ■調査項目●生育環境(衣食住、育児、人体変工など):特に、人体変工については世界で始めてパダウンの全装着者の調査を実施し、その美意識、発育にともなう形態的な変化を明らかにした。●形態発育(人類学的計測項目):特筆する知見としてムラブリは「思春期の発育スパートが存在しないことが見出され独特の思春期発育現象がある可能性がある」などの知見が得られている。●機能発達項目:FMS・GMSなど運動機能42項目(例、鉛筆削り、木登り、閉眼片脚立ちなど)、SFL28項目(衣服着脱、調理、火おこしなど):都市部のミャンマー人や日本人と比べるとモーケンやムラブリは著しく一部の身体能力に関して発達が早いことが明らかになっている。●基礎運動能力7項目(走、跳、投能力、視力、聴力、泳力、書字力):これらの結果も限界的な環境下では独特の発達が行われることが明らかになりつつある。●性成熟項目(初経、精通):出家僧などにおいて調査環境が難しく調査不可能の項目もあった。 これまでに収集した3~18歳の発育発達データについて項目ごとにそれらの発達状況を集計しつつある。また順次、データ解析と解釈を行っており、論文として報告準備を進めている。現在この種の調査としては世界最大級のデータセットを蓄積しつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
上記6.8.に記したように、従来全く知られていなかった限界的な環境で生まれ育ってきた人々の発育発達を困難な調査環境下で実査してきた。その結果非常に興味深いデータが順次蓄積されつつある。これまでにパダウン、ムラブリ、モーケンなどに関する数点の論文を公表し、また日本発育発達学会では上記に加えてシェルパ、ボーティアについても報告してきたが、最終年度となる平成30年度はこれまでの蓄積データを体系的に解析用データセットして整え、ミャンマー、タイにおける研究協力者と協議しつつ順次解析し公表する。この過程では欠損情報を現地における調査を行って補填することも予定に入れている。 平成30年度末には日本発育発達学会で研究代表者の大澤が会長講演としてこの研究成果を報告するとともに、大妻女子大学博物館と国立民族学博物館の共同開催という形式で「アジアの狩猟採集民の生活と子どもの発育発達」という特別展示を平成31年3月から5月の間開催する予定である。また併せてこの研究成果をまとめた冊子を刊行する予定である。
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Research Products
(15 results)