2016 Fiscal Year Annual Research Report
ssPalmが拓くマルチ創剤基盤:生体内包括イムノエンジニアリングと次世代癌治療
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15H01806
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
秋田 英万 千葉大学, 大学院薬学研究院, 教授 (80344472)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ワクチン / DNA / ナノ粒子 / 癌免疫 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々はこれまで、細胞内環境に応答して正に帯電し、自己崩壊する遺伝子・核酸送達システムとして、環境応答性脂質様材料(SS-cleavable pH-activated lipid-like material: ssPalm)を基盤としたナノ粒子を開発してきた。一方、これまでの研究において、ssPalmは核酸等のない条件では小さな脂質滴を形成することを見いだしている。本研究では、ssPalmを基盤とし、『細胞性免疫』を活性化するためのDNAワクチンと、『抑制的な腫瘍内免疫環境』を矯正するための抗炎症薬送達技術を開発する。これらの相乗的な機能を介した抗腫瘍効果を検証することを最終目的とする。具体的には、下記の検討を進める。 ①細胞性免疫を活性化するDNAワクチン技術: 細胞内環境応答性と高い生体適合性を有する新規脂質様材料を導入し、さらに表面修飾素子としての長鎖ペプチド(KALA)の機能を維持する上で必要な最小単位を同定しながら、汎用性の高いin vivo直接投与型DNAナノワクチン製剤を開発する。 ②腫瘍免疫環境を矯正する難水溶性薬物搭載微粒子: ssPalmからなる粒子に血中滞留性や組織標的化能を付与する為に必要となるサイズ制御法や、表面に修飾するポリマーの条件を見いだす。さらに、脂溶性薬物を粒子に『共集合』原理に基づき搭載する方法論を確立する。 H28年度までに我々は、表面修飾素子(KALA)の機能に必要な最小単位を同定することに成功し、その機能と構造間の相関を明らかとした。また、ssPalmの脂溶性足場や第三級アミン構造を最適化することにより、搭載DNAにコードされた抗原蛋白質に特異的な細胞傷害性T細胞の活性化や、腫瘍増殖の予防効果が認められた。 一方、低分子薬物搭載型粒子の創製においては、サイズや表面修飾の最適化により腫瘍移行性が高い粒子を見いだすことに成功した。さらにH28年度においては、デキサメタゾンを搭載したナノ粒子を開発し、本粒子の投与による腫瘍内遺伝子発現変動を解析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究により、樹状細胞への遺伝子導入に有用であったKALAペプチドの機能に必要な最小単位を同定したが、CDスペクトルの解析により、その機能を消失する閾において、αヘリックス構造が消失することや、本構造の消失とともに樹状細胞への取り込みが劇的に減少することを見いだした。αヘリックス構造を認識する取り込み経路が樹状細胞に備わっていることを示唆する結果と言えよう。一方、我々は、ビタミンEを足場とするssPalm(ssPalmE)を用いて調製したDNA内封粒子を皮下に投与することにより、DNAにコードされた抗原蛋白質に特異的な細胞傷害性T細胞活性の誘導や、それにともなう腫瘍成長の予防効果を発揮できることを見いだした。また、本粒子は、免疫活性化能も有することを見いだし、アジュバントとしても利用できることを見いだした。実際、抗原をコードしないDNAを内封したssPalmE粒子と、抗原蛋白質を同時投与することにより、抗原特異的な免疫応答を誘導できることを見いだしている。 一方、我々は、ssPalmから形成されるナノ粒子の物理化学的な特性を明らかとすると共に、腫瘍へ蓄積しやすいナノ粒子を見いだしてきた。また、ssPalm粒子の還元環境応答的な崩壊を伴う脂溶性薬物の放出能も確認している。H28年度においては、具体的な腫瘍環境矯正用分子としてデキサメタゾンを搭載したナノ粒子を開発した。本検討の中で、デキサメタゾン自身は脂溶性が十分でないことが明らかとなったため、デキサメタゾンのコレステロール誘導体を搭載した。本粒子を担癌マウスに投与し、腫瘍内の遺伝子発現変動を解析した結果、免疫関連遺伝子の変動を確認している。 以上、ssPalmを基盤とした細胞性免疫を高めるための直接投与型DNAワクチンの開発と、腫瘍環境の矯正を可能とする抗炎症薬搭載型微粒子の開発が共に進んでいる点で、おおむね順調に進展していると自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究より、細胞性免疫を活性化するDNAワクチンの開発と腫瘍環境の矯正を可能とする低分子薬物送達技術が開発できていることから、最終年度にはこれらを組み合わせた際の相乗的な癌治療効果を検証する。 また、DNAワクチン製剤の開発においては、細胞性免疫の活性化メカニズムの解明を試みる。具体的には、蛍光染色したナノ粒子を皮下に投与した際のリンパ節への移行や、リンパ節内における種々の免疫担当細胞(樹状細胞やマクロファージ)への取り込みを評価する。また、マクロファージ由来細胞などを用いながら、その活性化機構を明らかとする。一方、本製剤は、抗原をコードしないDNAを内封した場合においても、アジュバントとして機能することを見いだしている。本粒子のアジュバントとしての有用性をさらに実証すべく、PD1抗体などと合わせた癌治療効果も検証する。 一方、低分子デリバー技術に関しては、デキサメタゾン搭載粒子が腫瘍環境を矯正することを見いだしている。上記のDNAワクチン製剤との組み合わせによる抗腫瘍効果を検証すると同時に、本製剤の投与量などを調整しながら、本剤単独での抗腫瘍効果を検証する。また、本製剤のさらなる機能解析をおこなうため、より網羅的に腫瘍内遺伝子の発現変動を解析し、免疫矯正機構の解明に資する情報を得る。
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Research Products
(11 results)