2017 Fiscal Year Annual Research Report
批判的地域主義に向けた地域研究のダイアレクテイック
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15H01851
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
小川 英文 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (20214025)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岩崎 稔 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (10201948)
佐々木 孝弘 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (10225873)
島田 志津夫 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 講師 (20624117)
小松 久男 東京外国語大学, 世界言語社会教育センター, 教授 (30138622)
吉田 ゆり子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (50196888)
山内 由理子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (50626348)
菊池 陽子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (60334447)
小田原 琳 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (70466910)
米谷 匡史 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (80251312)
大川 正彦 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (80323731)
島田 周平 名古屋外国語大学, 世界共生学部, 教授 (90170943)
李 孝徳 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (90292721)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 地域研究 / 間帝国 / 人流 / レイシズム |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、2つの国際シンポジウムと3つのワークショップを開催した。1つ目の国際シンポジウム「トランスボーダーな宗教復興の拡大」と「国際政治のローカリゼーション」という研究観点が交差する経済発展と社会変容が目覚ましいインド・ベンガル地域に焦点をあて、従来のフィールドワークや歴史研究が有効性を失っている、社会変容の激しい地域を対象にした今日的な地域研究がどのようにありうるかを議論した。2つ目の国際シンポジウムでは、近年目覚ましい発展を見せている帝国内外の人々の移動に着目した「人流研究」を、大日本帝国の版図における人の移動をケーススタディにし、種々の「越境者」の主体に刻印されたコロニアリティの重層性を剔抉し、現代世界になお影響を与え続けている帝国主義/植民地主義を批判するための新たな研究視座を検討した。 3つのワークショップの一つ目では、研究計画における「国際政治のローカリゼーション」の研究論点のもと、「「群島」という現場―帝国・主権・グローバリゼーション―日本における島嶼研究の系譜から石原俊の小笠原群島研究を考える。」を開催した。また、2つ目は、この島嶼研究の沖縄での展開として、「在沖奄美の人びとの歴史―「非琉球人」管理体制の視点から」を開催した。3つ目は、オセアニアを対象地域にして、「国家の下位集団による社会的承認の創発化」という観点を加えて、国家暴力の被害者であってきたエスニック・マイノリティの権利回復がどのようであるべきかを検証した。 こうした2つの国際シンポジウムと3つのワークショップを通して、現代世界になお影響を与え続けている帝国主義/植民地主義を批判するための新たな地域研究の射程について展望することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、本科研が対象地域として選定している東アジアと先進地域に注力する一方、従来の地域の比較研究とは異なる関係史的な観点を確保するために「人流」という研究観点を新たに見出して設定することで、本研究の遂行過程において研究者たちの議論から生まれた「島嶼研究の新地平」と「間帝国研究」という、本科研の批判主義的地域研究を展開するためのフレームワークをさらに充実させることができた。 また、帝国研究を一国史的な展開にとどめることなく、また、比較帝国研究のような複数の帝国の制度の比較に終わることもなく、諸帝国が互恵的に帝国を構築してきたことを大日本帝国に焦点を据えながら、一般的な間帝国研究へとつなげる新しい広域研究について新しい視角を提示することができ始めている。 さらに、これまで展開してきた「島嶼研究の新地平」と「間帝国研究」という研究パースペクティヴから、戦前と戦後の東アジアの地政学を反省的に検証することで、、「間太平洋(トランスパシフィック)」というあらたな研究観点が生まれてきており、従来の閉鎖的であった地域研究を乗り越える批判的地域研究の研究視座として重要な観点であることが、とりわけ若手の研究者において主張されるようになっている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の研究計画に示した研究論点「国際政治のローカリゼーション」「歴史と責任の認識をめぐる抗争」「国家の下位集団による社会的承認の創発化」に基づいてを研究を展開するうち、「間帝国研究」と「人流研究」という新たな研究のパースペクティヴを設定することの意義が生じてきたが、ここにさらに「トランスパシフィック(間太平洋)」という研究視座の重要性が浮かび上がってくることになった。近代における東アジアは複数の帝国の力が交差するがゆえにその相互作用性を考えることは、これまで地域を限定することで成立してきた地域研究を批判的に考察するための研究地域として大きな可能性を持つことがこれまでの本研究の過程で認識されてきたからである。そこで今後の研究としては、このトランスパシフィックという研究視座に注力し、20世紀の日本と米国の政治体制の確立を関係史的に検証するを試みる。具体的には、戦前・戦後という時代区分ではなく、通戦期(トランスウォー)という観点から東アジアの戦後史を批判的に考察し、従来の閉系的な地域研究を間地域研究へと開くことを試る。また、こうした通戦期を通じて、日米の総力戦体制がそれまでの排除的なマイノリティ政策を包括的なものへと変更し、戦後の民主主義国家を準備したのかを考察し、あらたな地域研究としての間帝国研究のモデルを考える。
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Research Products
(35 results)