2016 Fiscal Year Annual Research Report
現代美術の保存と修復――その理念・方法・情報のネットワーク構築のために
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15H01871
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
岡田 温司 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (50177044)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
青山 勝 大阪成蹊大学, 芸術学部, 准教授 (10319832)
金井 直 信州大学, 学術研究院人文科学系, 准教授 (10456494)
上村 博 京都造形芸術大学, 芸術学部, 教授 (20232796)
前川 修 神戸大学, 人文学研究科, 教授 (20300254)
並木 誠士 京都工芸繊維大学, デザイン・建築学系, 教授 (50211446)
池田 祐子 独立行政法人国立美術館京都国立近代美術館, 学芸課, 主任研究員 (50270492)
平芳 幸浩 京都工芸繊維大学, 美術工芸資料館, 准教授 (50332193)
山下 俊介 北海道大学, 総合博物館, 助教 (50444451)
篠原 資明 京都大学, 人間・環境学研究科, 名誉教授 (60135499)
塚田 全彦 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 准教授 (60265204)
藤本 かおり (田口かおり) 東北芸術工科大学, 文化財保存修復研究センター, ポストドクター (60739986)
石谷 治寛 甲南大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (70411311)
加治屋 健司 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (70453214)
橋本 梓 独立行政法人国立美術館国立国際美術館, その他部局等, 研究員(移行) (70524073)
桝田 倫広 独立行政法人国立美術館東京国立近代美術館, その他部局等, 研究員 (70600881)
秋庭 史典 名古屋大学, 情報科学研究科, 准教授 (80252401)
池野 絢子 京都造形芸術大学, 芸術学部, 講師 (80748393)
牧口 千夏 独立行政法人国立美術館京都国立近代美術館, 学芸課, 主任研究員 (90443465)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 現代美術 / 修復・保存 / タイム・ベイスド・メディア / ドキュメンテーション / チェーザレ・ブランディ / アーカイヴ化 / マチエール |
Outline of Annual Research Achievements |
海外研究協力者であるローマ大学の二人の美学者、パテッラ教授とダンジェロ教授を招聘し、さらに分担者の平芳と枡田も登壇者に加わり、岡田の司会で9月22日に京都大学大学院人間・環境学研究科にて公開国際シンポジウム「現代美術における保存と修復」を開催した。ここでは主に、パフォーマンスなどアイデアやプログラムの保存・記録化をめぐる問題、古い美術の保存・修復で理論的な支柱となってきたチェーザレ・ブランディの考え方が現代美術にどこまで当てはまりうるかについて議論された。さらに平芳は、荒川修作の《養老天命反転地》の現状について、枡田は同じく荒川の初期作品の内部構造についてX線調査を踏まえた報告を行った。 3月20日には同じく京都大学にて、現代を代表し国際的に活躍する三人の美術家、岡崎乾二郎氏、藤幡正樹氏、宮永愛子氏を招いて「アーティストが語る現代美術の保存と修復」という公開シンポジウムを開催した。関西を中心に若い美術家やキュレーター、修復科などが参加し活発な討論が行われた。 金井は愛知トリエンナーレに関連するシンポジウムとして、9月18日に「現代美術の保存と修復」(名古屋市美術館)を企画し、岡田、田口、さらに協力者の天野太郎が登壇し、トリエンナーレの企画者・参加者、中部地区を中心としたキュレーターらとの情報交換、議論の機会が得られた。橋本は、10月29日に国立国際美術館にてシンポジウム「芸術の(再)歴史化:作品と資料体のあいだで」を企画し、協力者の上崎千を含めた四人の登壇者とともに表題のテーマについて活発な議論を行った。山下は、12月13日に北海道大学総合博物館にて「アーカイヴとコンテクスト:アーティストと映像」といういう企画展およびシンポジウムを開催した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、美学的・理論的な側面からの考察や議論が進められた点、そして、現在国際的に活躍しているアーティストが作品の収集や保存・修復についてどのような見解を持っているのかについて考えを聞く機会をもつことができたという点で、期待していた成果が得られたといえるだろう。具体的に、前者は、9月22日に京都大学大学院人間・環境学研究科にて開催された公開国際シンポジウム「現代美術における保存と修復」、後者は、3月20日に同じく京都大学にて、現代を代表し国際的に活躍する三人の美術家、岡崎乾二郎氏、藤幡正樹氏、宮永愛子氏を招いて開催した公開シンポジウム「アーティストが語る現代美術の保存と修復」である。これらにおいてとりわけ議論の対象となったのは、アイデアあるいはプログラムの保存と、ものそれ自体の保存とのバランスという問題である。たとえば、短時間のうちに機器が更新されるメディア・アートにおいて、アイデアだけが記録され、保存されればいいのかというと必ずしもそうはいかないことが指摘された。ある機器(物質的なメディウム)の存在が、アーティストの表現のみならず受容者の体験とも密接に結びついているからである。現代美術をめぐるものとアイデアとの関係については、今後、作家、キュレーター、修復家、研究者、一般公衆とのあいだでさまざまな議論が展開される必要があることが確認された。 この問題はまた、金井が愛知トリエンナーレに関連するシンポジウムとして企画した、岡田、田口、さらに協力者の天野太郎が登壇した「現代美術の保存と修復」(9月18日、名古屋市美術館)においても話題になった。今日、わが国でも、さまざまな町や地域でビエンナーレやトリエンナーレが開催されるようになり、そこでは一回限りの展示が行われているが、これらをいかに記録し残していくかは、今後の課題となるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は主に以下の調査・研究を予定している。1.昨年度につづいて本科研ホームページの充実。2.11月に、福岡市美術館との共催(協力者の渡貫の企画)で、福岡のアジア美術館にて、主にアジアのコンテンポラリーアートを対象にしたシンポジウムを開催する。九州地区において同様の企画は今回が初めてとなる。これには、代表者の岡田の他、分担者の森、金井、田口が登壇者として参加の予定である。アジア美術の収集、保存・修復をめぐって、九州地区のキュレーター、修復家、一般の愛好家との議論や情報交換が行われることが期待される。3.今年は、カッセルのドクメンタ、ヴェネツィアのビエンナーレ、ミュンスター彫刻プロジェクトが重なる年で、これらに各分担者が調査に出かける予定である。4.さらに森は、かつての留学先であったベルギーの各修復研究所の現状を調査する。5.田口は、本務校の東海大学にて、テートの修復家を招聘して公開シンポジウムを企画している。6.これまでの海外調査等についての報告会を、7月と年度末の3月に京都大学にて開催する。
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