2016 Fiscal Year Annual Research Report
Creating "otherness" and reconstruction of space in the European Eastern borderlands
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15H01898
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
篠原 琢 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (20251564)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉岡 潤 津田塾大学, 学芸学部, 教授 (10349243)
青島 陽子 神戸大学, 国際文化学研究科, 准教授 (20451388)
林 佳世子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (30208615)
古谷 大輔 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 准教授 (30335400)
小森 宏美 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (50353454)
秋山 晋吾 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (50466421)
中澤 達哉 東海大学, 文学部, 准教授 (60350378)
小山 哲 京都大学, 文学研究科, 教授 (80215425)
池田 嘉郎 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (80449420)
前田 弘毅 首都大学東京, 人文科学研究科, 准教授 (90374701)
鈴木 健太 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 研究員 (00749062)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 境界地域 / 中央ヨーロッパ / 空間 / 東ヨーロッパ / ナショナリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
H28年度は、予定どおり、国際文化研究センター(クラクフ、ポーランド)との共催で、国際移動セミナー「シロンスク・シュレージエン・スレスコ)」(H28.8.25-9.3)を実施した。建築史、社会史、文化史など、多様な専門を持つ現地研究者と共同で、ポーランド・ドイツ・チェコ共和国にまたがるシュレージエンの歴史的複層性について調査を行なった。「シロンスク」は、ポーランド語とドイツ語、チェコ語の接触により言語が混交し、近現代における政治的アイデンティティ形成に大きな影響を与えていたが、宗教改革以降のこの地域の複雑な宗派間関係もそこに作用している。また、近世まで諸公国の支配が複雑に入り組み、近代までその政治的伝統が残響があった状況も、言語・宗派間関係と相互に錯綜していた。第二次世界大戦後の住民追放と入植によって、シロンスクの人文地理的な景観は一変したが、その劇的な人口構成の変化も、地域における他者概念の生成の連続性の下に分析する必要があるだろう。 H28年度3月には国際文化研究センターから副所長のアガタ・ヴォンソフスカ氏を招聘し、移動セミナーの成果を総括するセミナーを行なった。またリトアニア共和国歴史研究所と共同で、8月22/23日に国際会議Entangled interactions between religions and national identities in the space of the former Polish Lithuaninan commonwealthを成功裏に終えた。リトアニア共和国歴史学研究所とは、29年度も継続して共同研究を推進する。 中央ヨーロッパ大学(ブダペシュト)との共同研究も進み、2月には歴史学部学部長のマティアス・リードル教授を招いて、宗教改革期の他者像についての研究会を行なった。ほかに研究分担者の多くが参加した論集の書評会を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初計画通り、国際移動セミナー「シロンスク/シュレージエン/スレスコ」を実施することができたが、その成果は期待された以上であった。従来、「境界地域」として想定していたのは、異なる法規範や、異なる宗教・宗派を軸とする地域が隣接するいわば「文明」の隣接地域であるが(ルーシとヨーロッパの隣接するポーランド=リトアニア連合王国、オスマン帝国とヨーロッパの境界地域としてのバルカン)、シロンスクは相対的に小さな地域に、他者概念の生成が集約的に観察される場である。近世期の諸公国の支配領域の錯綜、宗教改革期以降の複雑な宗派関係、ドイツ語、ポーランド語、チェコ語の言語接触は、相互に結びつきながら、この地域の人々の政治的・社会的・文化的自己/他者概念の生成を条件づけた。19世紀以降、この地域はダイナミックな産業化の中心地域となり、独特の労働者文化が形成されたが、そこにもまた近世以来の発展が反映していた。シロンスクでは、第二次世界大戦中から戦後にかけて、ドイツ系住民の追放や、旧ポーランド東部地域からの入植によって、歴史的な人口構成が断絶したが、それにもかかわrず、その後のこの地域の政治的アイデンティティ形成は、以上に述べたような他者概念の生成プロセスの連続性の下に分析されなければならないだろう。 リトアニア共和国歴史研究所と共同で行った国際会議「旧ポーランド=リトアニア連合王国の領域における宗教的・国民的アイデンティティの錯綜した相互関係」には、リトアニア、ポーランドのほか、ウクライナ、アメリカ合衆国、イスラエルから多数の研究者を迎え、本研究事業が集中的に取り組んできた旧ポーランド東部(Kresy)/ロシア帝国西部諸県についての研究成果を国際的水準で検証することができたほか、今後の共同研究に大きな可能性を開いた。
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Strategy for Future Research Activity |
H29年度は、三つの会議・国際会議を軸に研究計画が立てられる。1. 「境界地域における言語文化の創造」(東京外国語大学)は、言語文化の創造を通した他者概念の文化的実体化、社会化の過程を分析する。「シロンスク」セミナーの成果を土台として、「内的境界地域」の概念を導入し、境界地域が生成されるダイナミズムを分析の対象とする。ここではヨーロッパ東部境界地域に特徴的なイディッシュ文化の創造も主要な分析の対象となる。2. 「現象としてのガリツィア」(東京外国語大学)は、ポーランド、ウクライナから研究者を招聘して、「ガリツィア」という地域を境界性が生成された「現象」として検討する。この会議は、「境界地域」を方法的概念に昇華させる課題を担っている。3. 「1905年革命とロシア西部諸県におけるナショナリズム」(東京大学)は、リトアニア歴史学研究所と共催したヴィルニュスでの国際会議を継承するものである。H28年度の会議では、国民形成が文化的に進行しつつあった19世紀が主な対象であったが、この会議では、それが端的に政治化していく20世紀史を対象とする。 ほかに「東欧と日本における戦争の記憶と記憶政策」、「ヨーロッパ東部境界地域における宗教改革」をテーマにしたワークショップを計画している。これらの会議・ワークショップに向けて、プロジェクトを構成する各班は、個別に研究を推進するものである。 最終年度のH30年度には、再び国際文化研究センターとの共催で国際移動セミナー「モラヴァ」を計画しているが、これは、「シロンスク」セミナーを継承するものである。最終年度には、研究を総括する国際会議を東京外国語大学で行う。
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Research Products
(49 results)