2016 Fiscal Year Annual Research Report
Political economic analysis of micro and macro aspects of fiscal system
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15H01952
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Research Institution | National Graduate Institute for Policy Studies |
Principal Investigator |
井堀 利宏 政策研究大学院大学, 政策研究科, 教授 (40145652)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉川 洋 立正大学, 経済学部, 教授 (30158414)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 財政制度 / 財政赤字 / 政治経済分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
各国財政の実態について、ミクロ・データからマクロ・データへ整合的に整理する手法を検証するとともに、財政赤字累増や財政再建が経済活動にもたらす便益やコストの程度を定量的に研究することが本研究の目的である。そのために、複数の経済主体を前提として、ミクロ財政変数(歳出や税負担など)の決定メカニズムを理論分析するとともに、異なる世代間・世代内評価基準のもとでマクロ財政指標の最適水準について定量的に解析することを進めた。 より具体的には、財政制度が内包する受益と負担の乖離がもたらすただ乗り・先送り誘因を公共経済学・政治経済学の手法で分析するとともに、同盟国が国際公共財を自発的に供給し合うモデルを構築して、その動学的特徴を数値解析で解明することを試みた。また、多様な経済主体を明示して、有権者と政治家に関わる投票・選挙過程や予算編成における地方政府と中央政府の利害調整関係を政治経済学の手法で考察して、財政赤字の累増と財政規律の有効性を研究した。 なかでも、財政運営に影響を及ばす政治的環境、各利益団体の行動の効率性、財政支出に対する評価の乖離などに注目して、最善解と次善解を比較することで、景気対抗的な財政出動がどのような場合に正当化されるのか、されないのかを、理論的に検討するとともに、国際的なクロスカントリーデータを用いて、こうしたモデルの現実妥当性を検証した。その結果、わが国のような先進諸国でも必ずしも景気対抗的な財政運営が正当化されない状況が排除できないことを示した。 また、利益団体が財政支出に関してバイアスを持って政治行動することが、次善解ではむしろ望ましくなる可能性についても、数値計算でその蓋然性を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、以下の2点に留意して研究を行っている。①各国財政の実態について、ミクロ・データからマクロ・データへ整合的に整理する手法を検証するとともに、財政赤字累増や財政再建が経済活動にもたらす便益やコストの程度を定量的に研究する。②複数の経済主体を前提として、ミクロ財政変数(歳出や税負担など)の決定メカニズムを理論分析するとともに、異なる世代間・世代内評価基準のもとでマクロ財政指標の最適水準について定量的に解析する。 本年度では、これら2つの点に関して、様々なモデル設定のもとで得られた興味ある結果を論文としてまとめて、いくつかの国際学会などで報告し、内外の研究者と議論することで、研究上有益な成果を得た。また、そのうちのいくかの研究成果については公刊することもできた。さらに、財政運営に関する理論分析や日本の経済や財政が直面する諸問題については、専門書や啓蒙書などの出版物として公刊することもできた。 なお、政治経済学的な指標について、国際的に整合性のあるデータを収集する点については、利用可能なデータの制約もあり、必ずしも当初の意図した指標で国際比較を実施することに困難もあった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度までの研究を発展させるとともに、学会報告や論文投稿、また、内外でのミニ・コンファレンス開催などを通じて関連する研究者との研究打ち合わせを精力的に進めて、本研究全体のまとめを行う。具体的には、学会報告として、前年に引き続いて、国際財政学会、国際公共経済学会、アメリカ公共選択学会、ヨーロッパ公共選択学会、オーストラリア公共選択学会などでの研究発表を、また、ミニ・コンファレンスの開催場所として、カリフォルニア州立大学など、海外共同研究者の研究施設を予定している。 より具体的には、国際公共財の自発的供給モデルを応用して、国際的財政危機・支援についての研究をまとめる。これまで研究してきた利害調整メカニズムとしてIMFなどの国際機関や2国間の相互支援などの選択肢とともに、本年度は、利害関係者のレント獲得行動やNPOの啓蒙活動、さらには、財政当局の財政運営に過大評価・過小評価の可能性を考慮することで、非協力解と最善解を比較する。とくに、政治的バイアス行動のメリットとデメリットについて数値計算を活用する。 さらに、財政健全化ルールの制度設計などの研究を発展させる。不況期でも財政健全化にコミットするのが望ましいケースは、理論的な分析結果として政治状況で導出可能である。28年度は政治的要因を含むミクロ財政変数を定量的に整備することで、現実の政治環境における当てはまりの検証作業に取りかかったが、29年度はそうした研究を包括的にまとめて、政策的含意の妥当性を実証的に確認する。 また、諸外国の財政制度に関する実態やデータなどを本格的に調査して、制度、実証面でのミクロ、マクロのデータ整備とそれに基づくこれまでの定量的研究をまとめる。こうした作業を踏まえて、29年度に財政制度に関する実証研究やシミュレーション分析を包括的にまとめた本を出版する。
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Research Products
(20 results)