2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15H02023
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
武内 修 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (20361321)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 有機薄膜太陽電池 / 走査プローブ顕微鏡 / 光電変換 |
Outline of Annual Research Achievements |
バルクへテロP3HT/PCBM薄膜太陽電池に対して5段階光変調トンネル分光法を適用した結果、極端な高光強度励起条件下であるにも関わらず、ほぼ光強度に比例した光電流値を示す領域が観測されると同時に、光強度に対して強い飽和特性を示す領域も観測された。発生光電流値との相関を調べたところ、光電流の大きな部分においてより強い飽和が見られる傾向にあったが、一部には光電流が大きくても飽和しない部位も観測された。これは、構造や組成の最適化により高励起下での光電流の飽和を抑制する手がかりとなると期待される。同試料に対する暗状態におけるIV特性には、表面全体で強い整流特性が観られた。これまでP3HT/PCBM太陽電池と金属電極との界面ではP3HTリッチなドメインとPCBMマトリクスとがどちらも電極に接していると考えられてきたが、モデルの再考を迫る結果と言える。現在、これらの内容をまとめた論文を執筆中である。 一方、同じP3HT/PCBM試料に対して走査トンネル発光測定を行った結果、光電流値分布と同程度の空間スケール(50~100 nm)で発光強度に分布が観られた。一方、得られた光を直線偏光に分解し、偏光度の分布を測定したところ、試料の熱処理温度が高いほど高い偏光度が得られ、偏光分解発光測定によって結晶状態の善し悪しを変別可能なことが確かめられた。変強度分布には光電流や光強度に観られるよりもずっと大きな空間スケール(300~400 nm)で変化が見られた。比較的広い範囲で分子の配向がおおよそ揃っているという可能性と、注入した電子が薄膜内を移動するために空間分解能が低下してしまっているという可能性の2つを検討している。前者であれば、薄膜構造に対する新たな知見となる。後者であれば、本試料に対して当初期待したような高分解測定が望めないことになる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予算が要求額に比べて減額して配分されたため、本年度導入予定であった装置について、現状ではその一部しか導入できていない。一方、その分の時間を他の実験に割り当てたため、以下の進捗が得られた。 光照射実験では、多段階光変調トンネル分光法の装置およびソフトウェアがほぼ完成した。通常の走査トンネル顕微鏡測定でしばしば用いられるタングステン探針は仕事関数が大きいため、有機薄膜太陽電池に対する光照射実験で光電流を多く取り出そうとすると探針・試料間距離を極端に近づける必要があり、偶発的に試料と探針とが接触して試料を破壊してしまうことがあった。これを解決するため、走査トンネル顕微鏡装置内で探針に金属マグネシウムを蒸着し、そのまま大気中に取り出すことなく測定が行えるよう装置を改良した。これによりアルミニウムを電極として用いたモデル試料と比べても200 mV程度も高い解放電圧が得られるようになり、観測される光電流量も増大し、より再現性の高い実験を行えるようになった。ただ、未だに探針が試料に与えるダメージを完全にゼロにできずさらなる改善が必要である。今後は非接触モード・接触モードの原子間力顕微鏡などによる計測と合わせて、試料へのダメージを極力抑えた実験条件を得ることを目指す。 発光測定では試料の真裏のごく近傍に集光レンズを配置し、非常に高い効率で微弱光を計測可能な走査トンネル発光分光測定装置を準備し、また、集光した光を直線偏光に分解して計測可能な光学系を準備し、P3HT/PCBM試料に適用した。基本的な動作を確認することができ、高い集光効率も実現したが、現状では光学系の調整手順が確立できておらず、調整に時間が掛かったり、常に最高性能を引き出せるわけではないといった問題を抱えている。
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Strategy for Future Research Activity |
28年度の予定は以下の通りである。 基礎的なところでは、すでに開発した光照射実験装置、発光計測装置の調整手順などを最適化し、より再現性良く最高性能を引き出せるよう検討する。また、解析ソフトウェアを整備し、より高度な解析を短時間で行えるようにするなど、基本的な準備を進める。 光照射実験と光集光実験とを同一試料の同一箇所に対して行うための装置を早急に導入し、両者を組み合わせて行う物性解析の基礎データを集めつつ、基本的な問題点などがあれば早期に発見する。現状では測定による使用へのダメージが大きな問題となっているため、実験条件の見直しを行う。 光照射、発光測定とも、計測手法の空間分解能に未知な部分が残るため、酸素や水への暴露による欠陥生成機構の解明などと平行して、分解能評価を進める。
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Research Products
(3 results)