2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15H02102
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
島野 亮 東京大学, 低温センター, 教授 (40262042)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 超伝導 / ヒッグスモード / テラヘルツ / 超高速現象 / 非線形光学 / 秩序パラメータ / 銅酸化物高温超伝導体 / 非平衡 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は光による量子凝縮相のマクロ波動関数の光操作、超伝導コヒーレンスの光制御を目的としている。超伝導秩序パラメータの集団励起であるヒッグスモードやジョセフソンプラズマと光とのコヒーレント相互作用を探求し、光励起超伝導のダイナミクス、協力現象がもたらす巨大光応答を探求する。この目的のもとに本年度は以下の課題を進めた。 1)光源開発:超伝導体の光制御に必要なテラヘルツ光源の最適化を進めた。種々の超伝導体においてヒッグスモードの励起に必要なモノサイクルテラヘルツパルスの高強度化を実現するために、光源となるフェムト秒再生増幅器の高出力化を行った。これにより、低温環境下での高強度テラヘルツポンプ光プローブ分光や、テラヘルツポンプテラヘルツプローブ分光系を構築した。得られたモノサイクルテラヘルツパルス光源から、狭帯域マルチパルステラヘルツ光源を発生させるための光学系を整備した。 2)導波路構造によるヒッグスモードの増強:ヒッグスモード共鳴による非線形光学応答の増強を図るために、超伝導体NbNにより構成される導波路を作成し、その特性評価とヒッグスモード共鳴第三高調波発生の実験を行った。ヒッグスモードと光との相互作用長増強効果によって、実際に第三高調波発生の増強に成功した。 3)他の超伝導体への拡張:これまでヒッグスモードの観測を行ってきたs波超伝導体NbN系からの対象物質の拡張を進めた。2バンド超伝導体MgB2に対して、テラヘルツ第三高調波発生の実験を行い、ヒッグスモードを示唆する共鳴現象の観測に成功した。さらに銅酸化物高温超伝導体に対しても高強度テラヘルツ波パルス励起の観測実験を行い、テラヘルツポンプ光プローブの実験において超伝導秩序と相関のあるコヒーレントな振動の観測に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
超伝導体のヒッグスモードは申請者が世界にさきがけてその実時間観測に成功していたが、現有光源の出力が低く、国際的にも優位性を維持することが困難な状況に陥りかけていた。そこで本年度はまず光源の整備を最優先で進めることとし、本研究費により、テラヘルツ波パルス発生用のレーザー光源として従来の出力1Wのレーザーシステムから出力4Wのシステムへの更新を行った。これによりテラヘルツ波パルスの高強度化が実現し、低温環境下でも400kV/cm程度の電場尖塔値のテラヘルツパルスを安定して発生させることができるようになった。この光源の進展により、これまで行ってきた金属超伝導体に加えて、銅酸化物高温超伝導体の研究が可能となり、超伝導光制御に向けての実験を開始することが可能となった。最適ドープYBCO単結晶では高強度テラヘルツ波パルスが照射されている最中に、超伝導転移温度以下のみで現れるプローブ光に対してテラヘルツ波の周波数の2倍で振動する信号を観測することに成功した。このコヒーレント振動は、ピコ秒の時間分解能で超伝導秩序変数の光励起ダイナミクスを捉える画期的な手法に発展する可能性があり、目下その起源の解明を慎重に進めている。導波路構造によるヒッグスモード共鳴第3高調波発生増強に関しても、予備的な実験によりその効果を観測することに成功した。銅酸化物高温超伝導体においては超伝導コヒーレンスを直接反映するジョセフソンプラズマ共鳴の観測を行う実験系を構築し、光励起下における超伝導コヒーレンスの時間変化をジョセフソンプラズマの振る舞いを通して調べることを可能にした。
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Strategy for Future Research Activity |
1)光源開発:昨年度に引き続き高強度テラヘルツ波パルス光源の開発を進める。昨年度に導入した高出力レーザー光源を用いて、高強度のテラヘルツ波パルス発生法の最適化を進める。光励起との組み合わせのため、現有の光パラメトリック増幅器を高強度テラヘルツ発生系に組み込み、波長可変な光励起とテラヘルツ非線形分光を組み合わせた光学系を構築する。 2)s波超伝導体のヒッグスモードのデコヒーレンスの解明:s波金属超伝導体のヒッグスモードのデコヒーレンスの精密測定を行い、その起源の解明を進める。 3)臨界温度以上での超伝導揺らぎの観測:銅酸化物高温超伝導体を対象に光パルス励起後の非平衡ダイナミクス、特に超伝導秩序変数の時間発展と相関コヒーレンスの回復、超伝導揺らぎのダイナミクスを、光ポンプテラヘルツプローブ分光法により調べる。超伝導状態でテラヘルツ帯の反射スペクトルに現れるc軸ジョセフソンプラズマ共鳴は、超伝導状態における相関コヒーレンスの発達を表す指標となる。このジョセフソンプラズマ共鳴をプローブとして用いて、ポンププローブ分光を用いて転移温度以上での超伝導揺らぎを敏感に抽出する手法の開発を行う。
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Research Products
(14 results)