2015 Fiscal Year Annual Research Report
強相関電子系の電界効果とモットFETのプロトタイプ開発
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15H02113
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
井上 公 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 電子光技術研究部門強相関エレクトロニクスグループ, 主任研究員 (00356502)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山田 浩之 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 電子光技術研究部門強相関エレクトロニクスグループ, 主任研究員 (00415762)
渋谷 圭介 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 電子光技術研究部門強相関エレクトロニクスグループ, 研究員 (00564949)
押川 正毅 東京大学, 物性研究所, 教授 (50262043)
岡 隆史 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 客員研究員 (50421847)
白川 直樹 国立研究開発法人産業技術総合研究所, その他部局等, 研究チーム長 (60357241)
富岡 泰秀 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 評価部研究評価室, 上級主任研究員 (60357572)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 負の静電容量 / 電界効果トランジスタ / チタン酸ストロンチウム / パリレン / サブスレショルドスイング / 易動度 / 負性抵抗 |
Outline of Annual Research Achievements |
モットFET実現の鍵は欠損の出来やすいモット絶縁体の表面を保護しつつ高電圧印加できるゲート絶縁膜です。我々は「パリレン/HfO2積層ゲート絶縁膜」を開発。これを用いてSrTiO3単結晶(STO)をチャネルにした電界効果トランジスタ(FET)を作製しました。STOはモット絶縁体ではありませんが、量子常誘電体(巨大な誘電率を示すのに強誘電転移しない)という興味深い物質です。わずかなキャリアドープで金属化し、極低温では超伝導を示します。さらに、表面の2次元電子系は強いスピン軌道相互作用と空間反転対称性の破れによるラシュバ効果で興味深い物性を示します。しかしSTOは非常に酸素欠損を作りやすく、上記の物性は欠損によるポテンシャルの乱れに弱いため、我々のFETが示す物性を調べることは本研究の絶縁膜の性能を示す格好の舞台になります。 作製したFETは、ゲート電圧がゼロのときには絶縁体ですが、ゲート電圧を印加するとドレイン電流が急峻に立ち上がります(サブスレショルドスイングは170mV/decadeにもなる)。さらに易動度は10^14cm2/Vsにも達し、非常に優秀なFETです。つまりチャネルのSTOにはほとんど欠損が生じません。ホール効果の測定にも成功し、チャネルが金属化すると、キャリア密度がゲート絶縁膜の静電容量から導かれる値の10倍に達するという驚くべき事実が判明しました。負の静電容量と呼ばれる現象です。室温から4Kまでのホール係数の変化や伝導度の変化も詳しく測定することに成功しました。さらに室温でのFET特性に現れる履歴現象や、S型の負性抵抗についても詳細な測定を行いました。現在これらの多くのデータを解析中で、三編の論文にまとめているところです。予想外のデータが次々に得られたためモット絶縁体の上にFETを作製する試みは翌年度に延ばしましたが、期待以上の成果が得られたと考えています。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
FET素子作製を担当していたポスドクが5月末にいなくなり、後任のポスドクを11月から採用したため、その間の研究計画を見直す必要に迫られましたが、5月に両者で引き継ぎ作業を行っていたので着任後はすぐに素子の作製に成功することができました。予想外だったのは、引き継ぎの間のSrTiO3を用いた予備実験の段階で、次々と有意義な実験結果が得られたことです。非常に優れたサブスレショルド特性、高い易動度、室温から4Kまでのホール効果の測定と驚くべき負の静電容量、低温での伝導特性、室温での履歴現象と負性抵抗などです。これらはSrTiO3を用いたFETの応用という面で新しい可能性を示してくれただけでなく、今後の研究でSrTiO3の極低温での量子臨界現象を探索して理解していく上での有用な情報を与えてくれるものとなりました。 モットFETのチャネルとなる物質については、現在、VO2薄膜、SmNiO3薄膜、およびNiO単結晶を検討中であり、VO2についてはいくつかの予備的な実験を行いました。フォトリソグラフィーを用いてデバイスを作製するためのフォトマスクも新しく作製しました。 SrTiO3のLaドープ単結晶作製とその同位体置換は順調に進みました。系統的なデータを得て、さらに強誘電転移と金属絶縁体転移付近を詳しく調べる準備をしていましたが、単結晶作製の担当者が1年間、研究所の評価部に出向になったため中断を余儀なくされました。来年度から再開いたします。 希釈冷凍機を用いた極低温での測定については、当初の予定通り、デュワーの断熱不良の修理を行いました。冷却テストも成功し、来年度には測定を開始できる予定です。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続きSTO単結晶の(100)、(110)、(111)面上にFETを作製します。特に(100)面のFETについては極低温の超伝導をはじめとする物性探索を行います。STOのバルクは300mKで超伝導を示しますが、超伝導に及ぼすラシュバ効果の影響という物性物理の大きな問題は解明されていません。これは表面に欠損を作らず電界を自在制御できるこの2層ゲート絶縁膜でしか挑戦できない実験であり、我々に課せられた使命だと考えています。(110)と(111)面のFETについては今年度の(100)面のFETと同様の測定を行い、2次元電子系の示す物性の相違を明らかにします。それによって、負の静電容量の原因を探ります。 STOのFETを用いてニューロモルフィック素子を作製する研究にも取り組みます。STO FETの示す履歴特性や強い非線形性がニューロン素子として応用できる可能性があるからです。シナプス素子としては、BaTiO3などの強誘電体を用いたトンネルRRAMを用いることができないか検討します。 モットFET作製のために、VO2薄膜、およびNiO単結晶の(100)、(110)、(111)面にも2層ゲート絶縁膜FETを同様に作製します。モットFETとして動作するかどうかを検証し、STOのFETと比較することで、モットFETに必要な要素を明らかにします。 LaドープSTOの同位体置換単結晶についても極低温での超伝導転移温度やその臨界現象について探索を行います。 これらの実験結果は共同研究者の理論チームとシェアしてフィードバックを得ます。頻繁に議論を重ねて現象についての理解を深めるとともに、さらなる物性探索の方向に関しても知恵を出し合って、研究を進展させます。
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Research Products
(18 results)
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[Journal Article] Distinct substrate effect on the reversibility of the metal-insulator transitions in electrolyte-gated VO2 thin film2015
Author(s)
M. Nakano, D. Okuyama, K. Shibuya, M. Mizumaki, H. Ohsumi, M. Yoshida, M. Takata, M. Kawasaki, Y. Tokura, T. Arima, Y. Iwasa
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Journal Title
Advanced Electronic Materials
Volume: 1
Pages: 1500093/1-7
DOI
Peer Reviewed
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