2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15H02163
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
山口 茂弘 名古屋大学, 物質科学国際研究センター(WPI), 教授 (60260618)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ホウ素 / グラフェン / 半導体特性 / 蛍光 |
Outline of Annual Research Achievements |
グラフェンは,エレクトロニクス,センサー,触媒,エネルギー貯蔵など,広範な実践的応用を可能にする鍵材料として有望である.この材料に電子欠損性のホウ素原子を組み込むことにより,n型半導体特性を付与できる.本研究では,ホウ素ドープグラフェンの基礎化学を確立するために,そのモデルとなるナノグラフェン材料のボトムアップ合成を進めるとともに,ホウ素を導入することによってこそ得られる特異な物性,現象の追究を目的としている.本年度は主に以下の成果を得た. 1)ホウ素ドープナノグラフェンの化学吸着能の解明:ホウ素の導入の一つの利点は,ホウ素のルイス酸性を利用することにより化学吸着能を付与できる点であろう.この可能性について,ホウ素原子を2つ有するホウ素ドープナノグラフェンを用いて検討した.この化合物にピリジンなどの塩基を作用させると,2つのホウ素がともに4配位となった1:2錯体を生成した.さらに,アンモニアなどのガスにも応答し,蛍光の顕著な変化を示すことを明らかにした.これらの結果は,ホウ素ドープグラフェンの化学吸着能を示すものであり,センサーなどへの応用の可能性を示唆している.また,この化合物は優れた電子授受能をもち,リチウム電池の電極材料としての潜在性をもつことも明らかにした. 2)ホウ素ドープグラフェンナノリボンの精密合成:ジプロモビアントラセンをモノマーに用いた金表面上でのsurface-assisted Ulmannカップリングによるグラフェンナノリボンの合成が報告されている.この手法を,ホウ素を組み込んだモノマーに応用することにより,ホウ素の数と位置が規定されたホウ素ドープグラフェンナノリボンの合成に成功した.そして,更なる加熱により生成したグラフェンナノリボンの縮合が起こること,さらにはドープされたホウ素がLewis酸性を保持しており,NOガスの吸着が可能なことを明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,ホウ素ドープナノグラフェンのボトムアップ合成を機軸に,ホウ素を導入するからこそ実現できる物性,機能の探索に取り組んでいる.研究対象の柱として,1)一連のホウ素ドープナノグラフェンの合成と修飾,2)ホウ素ドープグラフェンナノリボンの精密合成,3)ホウ素ドープによる不安定化学種の生成および安定化,4)ホウ素ドープナノグラフェンを用いたセンシング能の検討,および 5)ホウ素ドープナノグラフェンの実践的応用の可能性の追究を掲げている.このうち,本年度において2)および4)において上述の通り大きな進展を得ることができた.特に4)の成果を報告した論文は,ホウ素ドープナノグラフェン材料の物性を,光物性や電気化学特性から化学吸着能,電池の電極材料としての潜在性まで包括的にまとめた初の報告であり,本分野の発展において重要な基盤になるはずである.1),3)の項目についても現在鋭意検討を進めており,着実に成果が得られつつある.
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Strategy for Future Research Activity |
上述の5つの研究項目のうち,来年度は主に1),3),4)についてより焦点を絞り,研究を展開する.具体的には,以下の計画を考えている. (1)ホウ素ドープナノグラフェンの合成化学:昨年度に続き,種々のタイプのホウ素ドープナノグラフェンの合成に取り組む.特に,異種ヘテロ原子ドープナノグラフェンの合成を検討する.例えば,ホウ素と窒素を組み込んだナノグラフェンでは,窒素架橋部位の修飾により,ホウ素のルイス酸性を変調でき,センシング能の制御が期待できる.これらの可能性を探る. (2)ホウ素ドープによる不安定化学種の安定化:ホウ素をグラフェン骨格に導入することにより,ラジカルやアニオンなどの不安定化学種の安定化も期待できる.そこで本年度も引き続き,すでに合成に成功しているホウ素架橋平面固定トリチルラジカルの物性の解明を中心に進める.特に,ホウ素安定化有機ラジカルのトランジスタ材料への展開について検討する. (3)ホウ素ドープナノグラフェンの化学吸着能の利用:これまでに,ホウ素のルイス酸性/配位数変化を利用することにより,化学吸着能を付与できることを示してきた.この特性を利用し,ホウ素ドープナノグラフェンの溶液プロセスによる有機薄膜トランジスタ作製の可能性について検討する.本質的に溶解性が低い多環芳香族π電子系化合物を,ホウ素へのルイス塩基の配位により溶解性を一時的に改善し,デバイス作製を行い,その後加熱処理することにより高度に秩序化された無配位π電子系の半導体性薄膜を作製できれば,ホウ素を導入する一つの利点を明快に示すことができる.
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Research Products
(14 results)